プロローグ
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今思えば、あの時の俺はどうしようもなく「病んでいた」。
小学生の頃から剣道をやってきて、高校にも剣道をやるために遠い学校に通った。正直、毎日が大変だった。忙しすぎて、他の奴らより遊ぶ時間が少なかった。
それでも、俺は他の奴らより上手くなりたくて、強くなりたかった。自分なりに頑張ってみたつもりだ。
一年生という事で、道場とかトイレの掃除も率先してやった。同学年の奴らが動かなかったら俺がやった。そういう積み重ねが、いつか報われると信じて。
骨折したり脱臼する事もあった。その度に見学する事になった自分が嫌だった。だって、休めば休む程他の奴らに遅れを取るんだからさ。
でも、あの時の俺は負けじと剣を振るい続けた。ここで止まれば俺は強くなれないってね。
けどさ、途中気付いちまったんだ。
どんなに頑張ったって、どんなに努力したって、運命には逆らえないんだって事に。
結局は、才能のある奴らだけが勝ち上がっていくんだって事にな。
……それに気付いてからはもう、止まれなかった。
何もかも壊してやりたかった。全部無くなってしまえって思ったよ。本気でそう思ったんだよ。
気付いたら退学になってた。あっという間だったよ、あれは。
十一月の中頃だった。まだまだ先は長かったのにな。
結局、俺は自滅しただけだった。何で俺は、道場を燃やそうだなんて考えたんだろう。やりすぎとかの問題じゃなくて、犯罪だって事に気付かなかったのかな。
その時俺は思った。俺、壊れてるなって。人間として、ぶっ壊れてるんだなってね。
退学になっても、俺は泣いていなかった。剣道をするために入ったのに、俺は後悔すらしていなかったんだ。
一歳年下の奴らと受験をして、無事受かった。でも俺の中には嬉しさはともかく、安堵も無かった。俺の心には、何も無かった。
今まで心の中にあったものが空洞になってしまったかのような感覚。俺はもう、何に対してもどうでもよかった。
生きているのか死んでいるのか、よく分かっていなかった。
あの時、俺は確かに「病んでいた」。
そんな俺を、生と死の淵から救い上げてくれたのは、妹だった。
あいつがいなかったら俺は、まだ剣道や退学の事を悔やんでいたし、仕事すらままならなかっただろうね。
当時はほとんど会話もしなかった妹に人生を教えられるなんて、兄として失格だよな。
今だって妹には敵わないし、対等に言い返せたとしても、やはり敵わない。
あいつの顔を見てると、何だか全部許せるんだよ。「俺が悪かったよ」、ってね。
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