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心は王様で
第三章
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第三章

「そうするわ。どうかしら」
「本当に気前がいいね。俺も丁度一人なんだよ」
「彼女はいないのね」
「三日前に別れたさ」
 事実をだ。アハマドは思わせぶりな笑みで述べた。
「向こうの家族が博打打ちなんかと一緒にいるなって言ってな」
「成程。それでなのね」
「よくある話さ。博打打ちと長く一緒にいる女はいないさ」
「まあそうね。色々と問題があるからね」
「で、今俺は一人だ」
「では貴方が勝ったらその独り者同士で」
「一晩楽しむか」
「そうしましょう」
 こんな話をしてだ。そのうえでだ。
 アハマドはその美女とポーカーをはじめた。最初に引いたカードの状況は。
 フォーカードだった。中々いい。しかしだ。
 彼はあえてだ。勝負に出たのだった。
 四枚のカードを一枚置いてだ。それからだ。
 一枚引いた。出て来たのはジョーカーだった。それで止めたのだった。
 それからだ。彼はカードを出した。それに対して。
 美女はワンペアだった。それを見て周囲は驚いた。
「勝ったよ、最後で」
「最後の最後で」
「また最後にツキがきたな」
「奇跡だな」
 驚く彼等だった。しかしだ。
 アハマドだけは素っ気無くだ。こう言っただけだった。
「よし、上手にいったな」
「あれっ、それだけか?」
「それだけで終わりかよ」
 周囲は特に嬉しそうではなく飄々としたままのアハマドに拍子抜けしてだ。そのうえでだ。
 いぶかしむ顔になりだ。こう彼に言ったのである。
「今日の負けの倍手に入ってだぜ」
「しかもそんな美人と一晩過ごすんだぜ」
「それで何でそんなに落ち着いてるんだよ」
「嬉しくないのかよ」
「嬉しいことは嬉しいさ」
 落ち着いた笑みになってだ。アハマドはその彼等に答えた。
「けれどそれでもなんだよ」
「それでも?」
「それでもっていうと?」
「勝とうとは思わなかったからね」
 だからだというのだ。
「嬉しいとは思わないんだよ」
「勝とうとは思わないからか」
「それでなのかよ」
「特に嬉しいとは思わない」
「そういうことか?」
「そうさ。また言うけれどギャンブルで勝つには勝とうと思わないこと」
 アハマドはこのことを実際にまた言ったのだった。
「いつも落ち着いて。焦ったら駄目なんだよ」
「王様みたいにかよ」
「そうだっていうのかよ」
「そうだよ。だからね」
 それでだというのだった。
「嬉しくはないさ」
「何か本当に王様みたいだな」
「それだけの大逆転を果たしても喜ばず当然みたいに受け止めるってな」
「そういうのってな」
「ギャンブルをやるには余裕がないと駄目なんだよ」
 王の様にだ。そこまでだというのだ。
「そういうことなんだよ」
「で、今日の勝ちはそのままでか」

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