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渦巻く滄海 紅き空 【上】
三十二 真夜中のお茶会
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君麻呂を尋問した。だがナルトを崇拝している君麻呂はどうあっても話そうとしない。そこで、彼の不治の病がとっくに治っているなど知らない大蛇丸は、術を用いる事で自白させようと試みた。幻術に長けた部下に命じて口を割ろうとする。
それが間違いだった。
前もってナルトが仕組んでおいたのだろう。君麻呂に幻術を掛けた者は尽く返り討ちにあった。即ち自分が掛けた幻術に己自身が掛けられてしまったのだ。
聞いてもいないのに内心を暴露し始める臣下達に大蛇丸は頭を抱えた。だがその反面、舌を巻いたのだ。大蛇丸の考えを尽く見破る、うずまきナルトに。
やはり欲しい。あの比類なき才能を己のものにしたい。だがナルトには術の一切が効かない。ならばどうするか。
故に即効性の、それも強力な自白剤を用意したのだが、それさえも無駄に終わったようだ。



円卓上に杯を静かに置くナルトを見遣りながら、大蛇丸は畏怖の念を益々募らせた。濁り始めた茶の緑に落とされる青い瞳は、大蛇丸にとっては認めたくは無いが、恐れという感情を思い出させた。


「それでだ」
未だ身を固くする大蛇丸に、ナルトはそれ以上追及しなかった。ふわりとやわらかく首を傾げてみせる。
「つまりは目撃者の記憶を消せば、問題ないのだろう?」
音と砂の密会についての話を蒸し返す。病院にいるであろう月光ハヤテの処置を自身が行うと暗に告げるナルトに、大蛇丸は瞳を瞬かせた。訝しむよう眉を顰め、「どういう風の吹きまわし?」と真意を探る。
「なに、お詫びだよ。十日間音信不通だったことに関してね」
口を開きかけるカブトを視線で制して、大蛇丸はじっとナルトを見つめた。滄海の如きその青い瞳は嘘偽りも無い、綺麗なものである。
暫しの逡巡の後、大蛇丸は試すような物言いで「…それじゃあ頼もうかしら」と頷いた。

「大蛇丸様!!」
咎めを含んだカブトの鋭い声が天井に谺した。ナルトはそれに何の反応も示さず、「ごちそうさま」と席を立つ。毒入り茶を残したまま窓へ向かう彼に、大蛇丸は「ナルト君」と声を掛けた。

「お帰りはあちらよ」

大蛇丸の最後の反抗は聞き入れられたらしい。殊更ゆっくり振り返ったナルトは口角を吊り上げると、足の先を扉のほうへ向けた。
細やかな装飾が為された重厚な扉。ギイィイイと開かれた扉の向こうには、薄暗い部屋とは一転して明るい廊下が見える。廊下から射し込む光がナルトの背中を影絵のように投影した。

「おやすみ」

扉が閉まる直前、ナルトの何気無い挨拶が、室内にいる者達の心を抉った。











ナルトの気配が遠ざかっていく。それを全神経で探っていた大蛇丸がようやく安堵の息をついた。どっと疲れたように身を寝椅子に横たわらせる。

「……首が繋がったわね。カブト」


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