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幸せという言葉は
第六章

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「そうしませんか」
「それでは」
「この薔薇を飾りたいので」
 無論それだけではない、薔薇を受け取るということは。
「それで私のお部屋でお話をしましょう」
「それでは」
「そういえばまだお互いのお部屋に行ったことはなかったですね
「そうでしたね」
 実はそうだった、奥手なロバートはベッキーを自分の部屋に呼んだことはなかったし真面目なベッキーも同じだった、だがそれをだというのだ。
「けれど今は」
「どうぞ」
 ベッキーは自分からロバートの手を引く様にして言った。
「今から」
「わかりました」
 ロバートは救われた様な笑顔で応えた、そうしてだった。
 この次の日にだ、彼は校長に話した。
「僕達はです」
「おお、決めたかね」
「はい、結婚を前提として」
「いいことだよ。今の気分はどうだい?」
「とても満ち足りた気持ちです」
 これまで生きてきた中でだ、最もだというのだ。
「救われた様な」
「そうだろうな。君はいつも生徒達に幸せになれと言っているね」
「はい」
 彼の教育方針だ、それだけに否定しない。
「そう言っています」
「誰だって幸せになる権利があるし義務だ。しかし」
「しかしですね」
「一人では完全に幸せになれないんだよ」
「誰かと共にいてこそですね」
「そうだよ。人は一人では生きていられないからね」 
 校長は笑顔で彼にこうも言った。
「聖書を読めばわかるね」
「夫婦ですね」
「アダムとイブの頃からね」
 まさに人類がこの世界に生まれてからだというのだ、人間は一人ではないというのだ。
「だからだよ」
「僕もまた」
「そう、一人では駄目だったんだよ」
「だから何かが空いている感じがしていたんですね」
 その心の中にだ、ロバートはここでこのこともわかった。何故長い間幸せでも心の何処かに穴が空いていたと思えていたのかを。
「そうだったんですね」
「そういうことだよ、けれど今の君は」
「物凄く満足しています」
「ベッキーには私からも話しておくよ。それならね」
「はい、これからはですね」
「その満足している幸せをね」
 それこそだというのだ。
「一生楽しんでいくんだよ」
「わかりました、そうします」
「それではいいね」
「これからは二人で幸せになります」
 こう答えたロバートだった、彼は暫くしてベッキーと結ばれ最高の幸せを知ることになった。それは一人では決して得られないということも。


幸せという言葉は   完


                           2013・12・18
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