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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十五話 大義と利
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いる。総司令官代理は憐れむような目でスクリーンを見ていた。その事がエベンス大佐を激高させた。
『そんな目で見るな! 我々の大義に偽りはない! 各艦隊司令官は愛国委員会の指示に従う事を表明せよ!』

エベンス大佐の言葉に反応する指揮官は居なかった。無言でスクリーンを見ている。
『何故だ、何故何も言わない! パエッタ中将、貴官はこの男を憎んでいるはずだ。ビュコック元帥、本来なら総司令官代理には元帥かボロディン元帥が就くはずだった。何故皆何も言わない! ヴァレンシュタインの事を嫌いだと言っていたはずだ! あれは嘘だったのか! こんな若造の指揮に従うというのか、何故だ!』
眼が血走り髪を振り乱している。無駄だ、この状況で愛国委員会に参加するなど有り得ない。自ら滅亡を選択する様なものだ。

「無駄ですよ、エベンス大佐。各艦隊司令官にはフェザーン占領後全てを話しました。彼らは愛国委員会のクーデターが利用されたものだと知っているのです。そして反乱討伐の大義名分が私に有る事も理解している。内乱終結後、ハイネセンに戻れば昇進も待っている」
『……』

「愛国委員会は彼らに利と大義を用意する事が出来なかった。そして私はその両方を用意する事が出来た。貴方方は敗れたのです」
『しかし、我々の接触には……』
足掻くエベンス大佐に総司令官代理が手を振って遮った。

「未だ分かりませんか? 貴方達から接触が有った場合、私に対して反発している事、帝国との和平に反対である事を言うように命じたのです」
彼方此方からざわめきが起きた。黙っているのは艦隊司令官だけだ。
『貴様ら、俺を嵌めたのか!』
怒声が響いた。スクリーンではエベンス大佐が血走った目でこちらを睨んでいた。

「このまま戦争を続ければ同盟も帝国も共倒れです、何処かで戦争を終わらせるしかありません」
『だから国力を結集して帝国を潰すのだ、今なら出来るはずだ!』
力説するエベンス大佐に総司令官代理は“無理です”と否定した。

「人口百三十億の同盟が二百四十億の帝国を征服するなど不可能ですよ。同盟の国力では宇宙を統一する事は出来ない、反って混乱するだけです。となれば和平による共存を選ぶしか有りません。帝国貴族は叩き潰しました、地球教も力を失った。和平を結ぶのに残っている障害は同盟に居る主戦派だけです。それも今回の反乱で力を失う」

ダーンという激しい音がスクリーンから聞こえた。エベンス大佐が両拳を握りしめ振り上げるともう一度机に叩き付けた。
『貴様、卑怯な……』
総司令官代理が笑い声を上げた。皆が驚いて総司令官代理に視線を向けた。総司令官代理は心底可笑しそうに笑っている。

「卑怯? 卑怯というのは正規な手段に寄らず違法な手段で政権を奪取し市民を支配する人間の事を言うのです」

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