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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十五話 大義と利
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全てを決めている』
会議室がざわめいた。代表が居ない? ざわめきの中でエベンス大佐は無表情を保ったままだ。総司令官代理が笑い出した。
「なるほど、代表を務めるだけの人材が居ませんか。或いは調整不足で一本化出来なかったかな。どちらにしろ決定権を持つ人間が居ないとは組織としては問題です、それでは不安ですね」
エベンス大佐の顔面が強張った、顎に不自然なほどに力が入っている。どうやら総司令官代理の指摘は図星らしい。

「トリューニヒト議長は当然ですが最高評議会のメンバーを拘束出来ましたか?」
『……』
「シトレ元帥、グリーンヒル大将は如何です?」
『……』
ざわめきがさらに大きくなった。政府、軍の重要人物を拘束できていない。これではクーデターに成功したとは言えまい。随分と上から目線だったがあれは虚勢だろうな、そうとしか思えん。

「おやおや、クーデターは起こしたが政府、軍の要人拘束には失敗しましたか。クーデター発生の第一報から随分と時間がかかっていますが善後策を検討したが決定権を持つ人間が居ないため右往左往した、そんなところでしょう。これでは私だけじゃない、誰も愛国委員会に参加しないと思いますよ。良くそれでクーデターを起こしましたね」
総司令官代理の嘲笑にエベンス大佐の顔が引き攣った。

『黙れ。我々を貶めて優位に立とうというのか? そんな小細工は通用せんぞ。艦隊司令官達は貴官の指示には従わん。貴官は嫌われているからな』
エベンス大佐が憎々しげに言うとヴァレンシュタイン総司令官代理が声を上げて笑い出した。

「嫌われている? そんな事は大佐に言われなくても分かっています。誰が私のような若造に命令されて喜ぶと思っているんです。私はそこまで御目出度くは有りません」
『……』
「ですが人間というのは好き嫌いの感情だけで行動する生き物ではないのですよ、エベンス大佐。貴官はその事が分かっていないようだ」
明らかに馬鹿扱いされてエベンス大佐の体が強張った。懸命に怒りを抑えているらしい。

「人間というのは地位や名誉を得れば無意識にそれを守りたいと思うものです。同時に自分の行動が功利的に見える事を酷く恐れる。自分の判断、行動が正当なものであるという大義名分を欲しがるのです。人を動かすには利と大義、その二つを用意すれば良い。そしてそれを得た後の安定を保証できれば言う事無しです」
皆が顔を見合わせた。困ったような表情をしている。気持ちは分かる。そこまで露骨に言わなくても、そう思っているのだろう。

総司令官代理が書類を手に取った。ミハマ中佐に “読んでください”と言って差し出す。中佐は書類を受け取ると文面を確認したが驚いている。総司令官代理とエベンス大佐を交互に見た後、声を出して読み始めた。

「発、宇宙艦隊司令長官シドニー・シト
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