偽りの大徳
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夜の行軍は静かに、されども迅速に行われていた。
率いる兵は三万の精兵。来る大きな戦の為に、今か今かと待たせ続けてきた勇者達。
目を爛々と輝かせ、端の一兵に至るまで油断も慢心も無く、華琳もその部下達も威風堂々の様子で先頭を進んでいる。
幾日進んだか、遠くに見える篝火は多く、その者達も膨大な兵を連れているのだろうと一目に分かる。
「あれが我が本隊の陣です」
短い一言。黒髪を風に靡かせる軍神のハキハキとした声は耳に良く通る。
ふっと微笑んだ華琳は、相対するモノの思惑その隅々にまで思考を巡らせ、呆れたように息を一つついた。
「では、劉備の所に案内しなさい」
絶句。周りの部下の誰しもが華琳の発した一言に耳を疑った。
如何に黄巾時代に交流があったとて、この群雄割拠の乱世に於いて他勢力の本陣に交渉を求められた側が向かうなど異質なこと。
ただ、軍師の二人は鋭く瞳に光を宿らせて思考を共有していく。主の思惑を看破出来ずして何が軍師か、と。
「か、華琳様! せめて劉備をこちらに呼び寄せるなどした方が良いのではないでしょうか?」
跳ねるように口を開いたのは春蘭。例え誰であろうとも己が主を傷つけさせはしないが、それでも万が一ということもあるのだ。片腕たる彼女は常に主の身を案じる。主の事を信じてはいるが、彼女は危険の可能性が少しでもあるならば黙っていられるほどのんびりはしていない。
チラと春蘭に目を向けて、華琳は獰猛な笑みを浮かべた。
「そうね、私も劉備軍を完全には信用してないわ。でも覇王たらんとしているこの私が、その程度の些末事に怯えるわけがないでしょう? だって私には信頼を置くあなた達がいるのだから当然よね」
華琳のその言葉にぱあっと顔を明るくした春蘭は、尻尾が付いていれば千切れんばかりに振っている事だろう。
それを受けて、愛紗は絶望と屈辱とが合わさった表情に顔を歪ませるも、悟らせまいと直ぐに顔を伏せた。
華琳の発言は、わざわざ彼女が口に出す事によって暗に三つのモノを示していた。
信用していないというのは……この交渉で劉備軍が望む提案を受けるかは今からの態度次第、もしくは追加の内容如何によって決めるという『選択する権利は曹操側にある』という強い意思表示。
それに加えて些末事。仮に相対するとしても取るに足らない存在であり、同盟を受けても劉備軍の力は当てにしていないと取らせているのだ。
最後に、自身と部下との絆を見せつけ、そちらはどうかと問いかけてもいる。覇王は一つの波紋を作るだけで満足するモノに非ず。
グッと腹に力を込めた愛紗は強い眼光で華琳を睨みつけ、憤りに支配されようとする心を抑え付けて口を開く。
「曹操殿、我が軍の陣内警備は万全です。億が一にでも何かが起こったなら
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