暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
偽りの大徳
[9/14]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
分を置き換えて考えるも、選ばれる答えは二つだけ。そして劉備の思考の行く先を考えるならば、私とは違う答えが一つだけ。
 大きく息を吸って、深く吐いた劉備は悲哀と絶望にくれる瞳を私に投げかけた。

「曹操さん、徐州は対価として足りませんか? あなたなら、この地の民を良くしてくれるのは知っています。あなたの兵隊さん達の犠牲も減りますし、無茶をしないで済むんです。だから……」
「へぇ、やはり徐州を差し出すつもりだったの。仁君、大徳とは聞いて呆れるわね。慕う民を捨て、治める地を捨て、義勇軍のように悪を続けるモノを裁く為に他の場所に行くと……そう言うのだから」

 皮肉を込めて彼女に言うと、ギリと悔しそうに歯を噛みしめた。ただ、その悔しさは自身に対するモノ。あなたは私を憎めない。善性を見せた人間を憎む事が出来ない。それがあなたの、人を信じるという本質、そして最大の弱点なのだから。

「選びなさい、劉備。あなたの軍は私の交渉を受けるのか否か。まあ、断ったらどうなるかくらい考えているのでしょうね。
 ねぇ、稟。大陸を渡り歩いたあなたなら、この規模の軍が抜けられる道でどれくらいの被害が出るのか分かるのでは無いかしら?」

 静かに、後ろを見ずに問いかけた。彼女が後ろで眼鏡をクイと持ち上げている姿が目に浮かぶ。

「……劉備軍の規模でしたら、そうですね。我が軍の精兵を基準として、現時点で直ぐに陣を破棄して行動に移したならば、兵の被害が半数に足りないくらいだけで荊州まで抜けられます。ただ、徐公明と鳳統の合流を待つならば、将の被害も兵の被害も半数を超えるでしょう。言わずもがな、時間が経てば経つ程に抜けられる可能性さえ薄くなっていきますね」
「たった二人の人物の身柄であなたの兵と将が安全に抜けられるのよ? ふふ、安いモノだと思わない?」

 挑発するように、再度現実を告げる。突きつけるのは絶望。劉備軍が選ぶ選択肢は本来一つしかない。徐晃と鳳統の無事も……最悪ここで待って確かめたいのだから、徐晃と公孫賛を差し出すと言えばそれも為せる。劉備や関羽としての最善は同盟を締結させて徐晃と鳳統を助けに行くことだろうけれど。
 これを受けると言うならばあなたは冷たい覇の道を歩む事が出来るだろう。そしてそれこそが徐晃の望む王の姿。近しい他者を切り捨てて、それでも大陸の平穏を望む覇王を……あの男は望んでいる。
 だから劉備が選べなければあの男は壊れる可能性が高い。何よりも、きっとあの男は『信じてくれなかった』と感じるからこそ壊れるでしょう。
 ただ、相手が私ならば出来うる事がもう一つある。その答えに、諸葛亮は私を冷徹な瞳で見据えていた。

――抜け道は……たった一つだけ。その為に私を此処に呼んだのでしょうね、諸葛亮。

 劉備の返答は無言。
 そう、ただ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ