偽りの大徳
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めているし有力でしょうけれど、今回の私が望むモノでは無いのよ」
きっぱりと言い切ると劉備の表情が怒りに歪んで行く。
許せるわけがないのだ。一人でも多くの人を救いたい彼女が、それが出来る可能性を目の前にぶら下げられているというのに拒絶されるなど。
だからあなたは矛盾している。だから……徐公明は壊れる寸前まで追い込まれているのだ。
――嘗て、初めての邂逅の時、あなたの軍は何をした? 多くの犠牲を伴って、私からの補助という力を得たでしょう? それは評価されてしかるべき事であり、綺麗事で治められないモノ。その行いを否定するモノは覇王たる私の部下に相応しくないが、皆は考えさせたなら最後に質問してきて、答えれば理解してくれる子ばかりだから問題は無い。必要な犠牲を払って力を得る。それをあなたも行ったはず。長い視点で見れば、私はあの時のあなたと同じ事をしているだけなのよ。
しかし私は何も言わないし指摘しない。その矛盾を呑んで尚、手を繋ごうとする劉備を認めているから。部下では無く、敵対者としての彼女をこそ、乱世では求めているから。嘗ての矛盾が、罪があろうとも、今の人を救おうとするならば、それは同じように人を殺している誰からも責められるモノであり、同じように人を救おうとしている誰からも認められていいモノ。ただ、その時々で人を救いたいという想いを穢すことも、二度と同じような間違いを繰り返さないことも、正しいし間違いであるだけ。
「そんなの……そんなの間違ってます! 自分の国の民を、膨大な人々を犠牲にしてたった二人を求めるなんてっ!」
ええ、間違っている。人として、あなたの方が正しい。ただ、私は乱世を治めきる王として正しい選択をしている。他の王ならば許容出来ない罪だとしても、私だけはそれを呑み込んでみせる。
切り詰めて切り詰めて、漸く手が届く頂。そこに辿り着く為には、なんであろうと切り捨てなくてはならない。莫大な痛みを伴おうと、誰かに人と見られなくなろうと。
此処に霞がいたのなら、きっと劉備に殺気をぶつけているだろう。董卓を生贄にしたあなたがその口で否定するのなら、怨嗟を向けずにはいられない。対象が二人の人物か多くの民かで認識が分かれるだろうけれど、結局の所全ては同じなのだ。
「其処をどれだけ否定してもいいけれど結果は変わらないわよ。あなたが喚こうと、私はこれ以外の交渉を認めない」
さらに口の端を吊り上げて劉備を見ると、悲哀の感情が渦巻く瞳を私に向ける。何か話そうと口を開くも何も出て来ずに、震える吐息を吐いて直ぐに閉じた。
痛いほどの静寂が天幕内を包み込む。
ふいと、劉備は諸葛亮に目を向けた。それを受けて、諸葛亮の瞳は一瞬だけぶれ、小さく首を振った。
何かの合図か、他に手があるのか、幾多も劉備軍の立場に自
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