偽りの大徳
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う事は分かっている。しかし私の発言はまだ終わっていないのだから先は言わせない。
「それと一つ言っておく。私の国の民である兵の命、軽くは無い。それに見合うモノでなければ交渉は受けない。戦争とは命を対価とした外交手段なのだから当然でしょう?」
にやりと口の端を上げて言い放つと、劉備がグッと唇を噛みしめる。フルフルと机の上に置いた手が震え、次いでぎゅっと握りしめた。
――さあ、あなたはどう答えてくれるのかしら『仁君』劉備。矛盾を貫き冷たい道に脚を踏み入れるのか、それとも久遠の理想を現世に落とさんとする大徳の道を望み続けるのか。
しばしの沈黙に諸葛亮の額から汗が一滴零れ落ちた。彼女としても、劉備の選択如何によっては行動を起こさなければならない為にだろう。
「……曹操さん。あなたはこの大陸の事を憂いているんですよね?」
ぽつりと、劉備が零した。眉を寄せて、悲痛に歪む表情は暗く、重い。
「その通りよ。私はこの大陸の現状を憂いている。力無きモノが理不尽に搾取され、罪なきモノが非道の輩に喰い物にされるこの世界を変えたいわ。一人でも多くの人々が救われる世界を望んでいる」
ビシリと言い放つと、彼女は静かに目を伏せた。後に、光溢れる瞳を私に向ける。
「だったら、協力しませんか? これから先、侵略が行われないように力を合わせて、皆でこの大陸を良くしていきませんか? ゆっくりと、でも確実に対価は払っていきます。お金であれ、土地であれ、それ相応のモノを人生全てを賭けて払いますから。だから、皆で手を繋いで大陸を良くしていきませんか?」
緩く耳を抜ける言葉は心地いい。
綺麗で、美しくて、何よりも尊いモノだろう。
誰かと誰かが協力すれば、そこに平和は訪れる。
侵略する者が一人もいなくなれば、弱きを虐げるモノを抑え付けられれば、全てが平凡な日常を享受できる。
殺した人は数多く、死なせた人も数え切れず。だからもう間違えず、今生きる人を共に救おうと言っている。
誰かから何を言われようと構わない。この大陸を救えるならばそれでいい。
そして行き着く先は皆同じ。乱世の果てに望むモノは……どの王も同じなのだ。
ただ……劉備は一人でも多くを確実に救いたい。
私は……一人でも多く、先の世に生きる人を確実に救いたい。
――だから……私はあなたと手を繋がない。その尊さを分かっているからこそ、全てを私の下に置く。
「劉備……あなたの言っている事、どういう意味か教えてあげましょう」
訝しげに見つめられるも、私は目を伏せて彼女の瞳を見ないようにした。ここから少しの間、どんな感情も受け付けない。あなたの言葉を聞かない人もいるのだと教える為に。
「漢の再興。それがあなたの目的となるでしょう
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