偽りの大徳
[2/14]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ば、与えられた命が遂行されるまで、私の全てを以ってあなたを守りましょう」
数瞬の空白。後に華琳は口角を吊り上げた。うっとりと、その瞳を淡い色に染めて。
――こちらの投げた非礼ギリギリの言葉に対して、どのような答えが返ってくるのかと楽しみにしていたけれど……その在り方、やはり惜しい。
愛紗の対応は華琳の想像以上であった。
華琳の残した抜け道、襲い掛かるのが劉備軍とは言わなかった事を間違わずに把握したのは予想通り。しかし……命令通りに桃香との交渉が終わるまでは何があろうとも守るとまで言われるとは思わなかったのだ。
忠義は曲がらず、自身を律しきる心力も持つ。それは華琳が欲しいと願う武将の姿。
想い人を口説き始める前のような空気を醸し出し始めた華琳を見て、
「いや、お前はいらん。我らが守り通せんわけが無いだろう?」
間に割って入ったのは眉間に皺を寄せた春蘭であった。そんな春蘭の不機嫌な様子が愛らしくて華琳は思わず苦笑してしまった。
「ふふ、そうね。じゃあこうしましょう。関羽、あなたは劉備軍陣内に交渉の場として相応しい天幕を用意するよう言ってきなさい。期限は二刻。もちろん、準備完了の報告はあなたに来て貰いましょうか」
戯れは終わりとばかりに表情を引き締めての提案に、愛紗も気を引き締めた。
「……感謝します、曹操殿」
「その礼、交渉が終わるまで受け取らないわ」
一つ目礼をした愛紗は華琳の言葉に訝しげに見やるもすぐに振り切り、馬の腹を蹴って己が陣へと駆けて行った。
愛おしげに見送って大きく息を吸った華琳は、
「全軍停止せよ! 我らは此処に野営の陣を組む!」
凛とした命を夜天に響かせ、己が力たるその軍に指示を放つ。後に、ゆっくりと周りに居並ぶ部下達を見回し、優しく微笑んだ。
「関羽が帰って来たら春蘭は言わずもがな……季衣と霞、それに凛と桂花も来なさい。凪と沙和は陣の設営後に春蘭と霞の部隊も纏めておくこと」
御意、と幾つもの声が重なり、それぞれが与えられた仕事の為に動き始めた。季衣だけは親衛隊である為に動かず、華琳の隣で遠くに光る劉備軍の篝火を見つめている。
その瞳には少しの敵意を。張飛の事を考えているのだろうと苦笑を一つ零した華琳は無言で同じようにその陣容を見つめた。
――交渉の場に徐晃がいるかどうか……いや、どちらにしろ同じ事か。あれが居ようと居まいと結果は変わらない。もし居るのなら、私に何を捧げてくれるのか楽しみにしておきましょう。
簡単に交渉が成立するとは華琳も考えておらず、徐晃ならば必ずここで何かしらの切り替えしを用意していると考えていた。
沸き立つ感情から、口の端を吊り上げる彼女は逸る心を抑え付ける為に空を見上げた。
目に映るのは
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ