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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の1:策謀の実行
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 鶏も鳴かぬ時間、即ち朝焼けが照らぬ暗闇の世界。目をじっと凝らせば朧にも風景が見えるかもしれないが、人間、普段から闇を意識して見分けようとはしない。況や、その中で行われる行為など、物好きの中の物好きでしか興味をそそらぬ光景ともいえた。
 かつんと、暗闇に音が響いた。石畳の上に降り立った音に続いて、疲労感を抱いた声が響く。

「ふぅっ・・・ったく、重労働過ぎるぜ」
「アダン、声を余り大キクするなヨ。憲兵ニ嗅ぎ付けられタラ困ル」

 大通りに面する木造の建物、その二階バルコニーが生み出す闇に隠れるように二人の男、アダンとビーラの声が囁かれた。
 アダンはそっと、さっきまで張り付いていたバルコニーの裏の部分に目を遣った。見た目は変わらぬが、重みが掛かれば自重によりバルコニーが丸ごと外れて落下するように仕込んであるのだ。大通りでは働き者の商人の何人かが行き来していたが、ビーラの合図によってアダンは夏の蝉のように硬化して、事無きを得て作業を終えたのだ。

「いやぁ朝から商人の方々は、働き者なこってぇ。見ろよ。宿屋と酒場の主人に薬の調合師。それとぉ・・・雑貨商に古物商、武具屋のおっちゃん。うおっ、盗商のダリー婆まで居るぜ、すげぇな」
「よく其処まで見エルな」
「視力の良さも盗賊には必須なので、な。・・・ってちょっと待て」
「如何した?」

 険しき表情でアダンは一方を見遣る。遠く、通りを横断する小さな人影である。アダンはその卓越した視力を発揮して、薄暗闇に溶け込んだそれを、金髪碧眼の少年のものだと見極めた。そして闇中に靡く白蛇のマントもまた捉えたのである。

「・・・嫌なモン見ちまったよ、『コンスル=ナイト』の餓鬼だ」
「・・・執政官ノ手駒だと?何処ニ向かっタ?」
「もろ教会の方面だった、間違いないね。聖鐘の護衛につくためだと思うぜ」
「・・・厄介ナ。少年とはいえ騎士デ在る事に変わりは無イゾ。真正面から相対スレバ、我等が棟梁が苦戦するのハ必定」
「だな。あいつ、魔法は得意そうだったけどそれ以外の腕はなんか信用出来ないし」
「口振りもカ?」
「それはキャラだろ?」

 アダンはそう言って東方の空を見上げた。黒革のように染まっていた空に、俄かに蒼の兆しが走駆してきている。鋭敏な感覚が夏の朝の冷ややかさが温まり始めるのを嗅ぎ取った。  
 此処にこれ以上居られなくなったのだ。陽射は盗賊が最も嫌う光である。アダンはビーラに向かって言う。

「兎も角、仕事を上手くやるためには全員の注意を惹く必要がある訳だ。・・・俺が全力で奴らの注意を惹く。棟梁の援護を頼めるかい、ビーラよ?」
「造作も無イ。時が来れば必ずやり遂げヨウぞ」
「へへ・・・頼れる仲間って最高」

 快活な笑みを零したアダンは建物の間の裏路地へと足を進めた。後
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