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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の1:策謀の実行
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不可抗力に身を揉まれている内に、ユミルの肩が他人のそれとぶつかってしまった。
 
「っと」
「ム?」

 慌ててぶつかった方を見る。自分と同じ、地味なロープ姿をした男であった。 

「す、すまん、急いでいたもので」
「此方コソ。申し訳ナイ」

 言葉を交わしてさっと離れようとするユミルは、ふと足を止めて記憶を掘り返す。どうにも先の言葉、その独特の訛りに引っ掛かるものを感じたのだ。
 ユミルは踵を戻して再び男の下へと向かって声を掛けた。 

「すまない、少しいいかな?」
「ん?サッキの者カ。如何シタ」

 雑踏の波の端で、ユミルはその男のロープで覆われた顔を真っ直ぐに見詰めて言う。

「実は此処で旧知の知り合いを探しているんだ。よければその人物を知っているか尋ねても良いかな?」
「ふむ?どんな者ダ」
「そうだな・・・。分かりやすく言うとだな・・・妙に言葉遣いが片言、というより訛りが強い男でな。それに加えて、あまり大きな声で言えぬがその者は半魔人なのだ。蜥蜴の魔人と、人間のな。だから身体全体に蜥蜴のような深い翠の鱗が生えているのだ」
「・・・ソウカ。随分ト、変わった奴ダナ」

 男は言葉と共に俄かに頭を俯かせる。はらりと揺らめいたローブの裾から、人に非ざる翠色の肌がちらりと見えた。同時に角ばった鱗が犇き合っているのも見え、ビーラは驚きに目を見開いた。

「・・・まさか・・・ビーラ?」
「・・・久しぶりダナ、ユミル」

 懐かしみの混じった声でその者は呟き、そっと頭を上げた。先程よりも明らかに成った風貌に、ユミルは人知れず溜息を漏らした。翠色の鱗肌に爬虫類のような鋭い視線。トカゲのような形相ゆえに老化は目立たないようであるが、その頬には確りと薄い皺が走っているのをユミルは見抜いた。
 通りに蔓延する闊歩の音や人々の声が何処か遠くに感じつつ、ユミルはゆっくりと話し掛けた。

「・・・長らく探したぞ、友よ。あれから十年振りだ」
「・・・何時かきっと来ル、そう思ってイタ。色々ト準備までしてしまったヨ」
「人気の無い所へ行こうか」

 言葉に誘われるように、二人は路地裏へそっと抜け出していく。建物のバルコニーで繰り広げられる喚声を頭上で聞きながら、二人は歩く。
 建物一軒ほどの距離を歩いて二人は互いを見つめあった。雑踏の喧騒から離れてそれらの視線から逃れればいいのだ。話し合う分には問題等ない。

「元気にしていたか?俺はこの十年、狩人のような生活をしていたよ。野獣を狩り、夜盗を剥ぎ・・・はは、時には魔獣にさえ襲われた。お前はどうなんだ?今はどうしているんだ?」
「元気、とマデは行かんナ。薬の乱用デ、一時は骨ガ透けて見えるまでゲッソリと痩セタよ。その後ハ運び屋トシテ各地を回っていた。・・・今は仲間
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