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王道を走れば:幻想にて
第三章、その3の3:三者の計画
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てだ」
「教会の隠匿体勢の賜物さ。初見の人間ならば訳も判らぬ内に斃されるだろう。聖鐘を守る警備兵は皆雇われの人間、どうって事はない」
「一応私ガ使役しているあの男ヲ向かわせようカ?役ニ立つゾ」
「御厚意だけ受け取ろう。この立派にして重みのある責務は、計画の発起人である私、チェスター=ザ=ソードが全うせねばならない!況や王国の在り方に大いなる楔を打ち込めるのであれば、これは私一人でこそ成就すべきなのだ!
 ・・・それに、君等に余計な負担を掛けさせるべきではないからね」

 ふと湧き出た言葉はチェスター自身、予期のつかぬ言葉であった。短い付き合いと割り切る心算であったが、案外にもこの三者での行動に親しみを覚えていたのか。予想だにしない感情によって、妙な顔つきとなってしまう。
 その気持ちを理解してか、アダンは何も言わずに小さく首肯を返す。ビーラもまた満更でもないような面持ちになりつつ、言葉をかけた。

「フン。棟梁ガそう言うのならば従おウ。ところで一つ気になっていたんダガ」
「何かね?」
「あの炎、何時まで燃えているンダ?」

 翠色の指先が見詰める方向へと皆が目を向けた。キャビネットの上が、燃えている。正確には、その戸棚からはみ出た衣服の一部が引火している。皆が沈黙する中、火災はばちばちと音を一つ立てた後、一気に轟々と戸棚の内側から火を吹き始めた。中の衣類が完全に火の種となり、今ではキャビネットそのものが火の種となってしまった。

「みみっ、み、水っ!!水を持って来給え!!」
「おいチェスター!!火は出せるのに水は出せないのか!?」
「教わっていないんだ、馬鹿者!!水の精製は高等技術なんだよ!!」
「ホレ、水差しダ」
「足りる筈が無いだろ!?バケツで水を取って来給えぇぇぇ!!!」

 甲高き悲鳴が『キールの麦』に響き渡り、二階の窓から流星のような明るみが毀れ出ていた。程無くしてその騒ぎは建物中に伝播し、宿屋全体に寝床には似つかわしき剣呑として活発な空気が覆い被さり、正に肝を冷やすかのような消火活動が始まっていった。
 この事件の後、明るみも白々しき頃に三者が宿屋を叩き出されたのは語るに及ばぬ話であった。


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