第三章、その3の3:三者の計画
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焼き上げたばかりのパイ生地を口に頬張れば、カリっとした食感と共に円やかに溶かされた甘味が膨らむように口の中を埋め尽くす。それに後を追うように紅茶を一口。ストレートに薫りを伝えるのは上品な南方産の茶葉である。好ましさのある渋味はパイの甘みと口当たりをやんわりと溶かし、それでいて薫りを更に際立たせるものがあった。
ほぉっと、心からの安らぎの息を漏らす慧卓。彼の感動はテーブルを囲んで座る、ミシェルとパックにも共有されたものであった。王都の貴族御用達の甘味店、『ハチドリの夢』での朝である。
「なーんか、こういうの久々な感じがするよなー」
「だよなー。俺達だけなんてのはなぁ」
「このアップルパイ美味しっ」
パックの潜み声には紛れもない感動の色が混じっている。そんなこんなで今や三皿目であるが、勘定は大丈夫なのだろうか。一介の兵士の給料で払えるのであればよいのだが。
「慧卓よ。どうだい、王都は。クマ様からすげぇすげぇ言われてたけど、実際どうよ?」
「ああ、それねぇ。熊美さんは色んな人間が居るって言ってたから期待したのに、宮廷に閉じ込められてばっかで詰まらないんだよ。遭うのは豚から蛙まで選り取り見取り。なんだかんだいって俺まだドワーフに遭ってないなー」
「もぐもぐ・・・ドワーフらぁ?ほんなあふら・・・ごくっ、あいつら俺達と大して見た目変わらないぜ?習慣が違う異民族みたいな感じだよ」
「ふーん。そうなの?」
「刺青は結構好きだよなぁ、あいつら」
「だな。ゴキブリの触覚みたいに刻んでるし」
指先で触覚の蠢きを表現するパックに、ミシェルはブーイングを兼ねてかテーブルの下で足を踏んだ。パックはひっと悲鳴を漏らす。職務中であれば軍靴が守ってくれるが、今は完全な余暇であるため感覚は痛烈であった。
慧卓は俄かに店外から響いた黄色い悲鳴に目を遣り、そして瞳を細めて友人に尋ねた。
「・・・ミシェル、お姉様ってなんだと思うよ?」
「突然なによ、ケイタク」
「いや、ね。最近宮廷で過ごすうちにさ、姉という存在になんか疑問符が浮かんできて、ちょっと不安になったんだよ」
「ふーん。ま、理解できなくもないな、あれじゃ」
二人は紅茶を啜りながら店外へ目を向けた。明るい日差しと日々の喧騒を伝えてくれる開かれた窓。その風景の中心に陣取るのは、瑞々しさとかしがましさを同居させた憧憬に浸る乙女達と、困惑気味な苦笑を浮かべたアリッサである。最早当たり前となって来た光景ではあるが、矢張り何処か現実離れした情景であった。
「お姉様、どうぞこれを受け取って下さい!」
「こ、こんなに沢山の花束・・・あ、有難う。恩に着るぞ」
「恩に着るだなんてそんな・・・。お姉様に一目お逢いしたくて野原より摘み取った花ですから、そんなにいいものではありません。
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