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英雄王の再来
第5騎 トルティヤ平原迎撃戦(その2)
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58年4月30日、王位継承権第3位の王子エル・シュトラディールが、劇的な初陣を掲げたこの戦は、後世、“トルティヤ平原迎撃戦”と呼ばれる。しかし、エル・シュトラディールの初陣は、これで終わりではなく、長い“激動”の始まりに過ぎないと言う事は、まだ、誰も知り得ない事である。
 
 冷たくも、どこか温もりを感じる夜風が、部屋を吹き抜ける。虫の鳴く声も、日に日に多くなっているように感じる。そのような中、シャプール砦の大広間では、物々しい雰囲気が漂っていた。

 今、私の目の前には、2人の“捕虜”がいた。それぞれが、それなりに身分の高い人間だが、その身分に見合わない愚直な行動をしたために捕らえられたのだ。2人とも、私に向けて、射殺さんとせんばかりの目をしている。
 そのうちの1人は、軍が混乱し、撤退を余儀なくされる中、自分の功の為に味方を危険に晒すという愚直な行動を取った人間。ミルディス州総督 テリール・シェルコットである。豪奢とも言える甲冑に身を包んだまま、鎖に巻かれ拘束されている。
 もう1人は、アトゥス王国軍が頭を抱える人物である。自分の作戦と状況判断を盲信し、敵の策に見事に嵌まり、7千の兵を無駄に死なせた人間。アトゥス王国 王子 ヒュセル・シュトラディールである。こちらは、さすがに甲冑は脱いでいるが、その絹の服は、豪華で派手と言うしかない。

「何故、お二人が呼ばれたか、分かりますか?」
エルは、彼らに問い掛けた。出来るだけ静かに、そして、感情を抑えて。

「私の処遇についてでも、話すのだろう?」
シェルコット総督が、もはや諦めたと言わんばかりに呟いた。

「エル!2人とはどういう事だ?私もこいつと同じく数えられているのか!?」
敵の捕虜と同じく数えられたのが、そんなに嫌だったのか、唾を飛ばしながら叫んだ。そして、私に迫って来ながら、さらに叫ぶ。

「それに、何故、お前がそこに座っている!?そこは、指揮官が座るところであろう?!お前ではなく、私が座るべきだ!」
この大広間は、一般的な謁見の間に似ていて、部屋の入り口から最奥の所に、床より一段上がって椅子が置かれている。私が今、そこに座っているのだが、それが気に入らないらしい。

「兄上、今は捕虜という形ですが、一応の客人の前です。お静かに。」

「なっ!?」
その言葉に対して、まだ何か言いた気ではあったが、私がそれよりも先に、シェルコット総督に話し掛けた。

「シェルコット総督、話を戻します。私が聞きたいのは、1つ。何故、この時宜に、アカイア王国軍が大軍を動かしたのか。これです。」
彼は、驚いた表情を見せた後、目を瞑り考えるような素振りを見せた。ただ、そのままで、答えようとしないので、さらに問い掛ける。

「・・・話せませんか?まぁ、普通はそうでしょうね。
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