第三章、その3の1:遠因の発生
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「しっ!!」
威勢よく横振りに放たれた剣は虚しく空を切り、それを放った男は必要以上の力で動きを引き止めた。目の前に佇む騎士はまるで初心の輩を弄ぶかのような余裕を持ちながら、悠々と距離を開けようとしている。
「ぃぃっ、こんのぉっ!」
靴で土煙を巻きながら男は接敵し、再び両刃の剣を振っていく。勢いを付けた上段斬りも易々と避けられ、下段からの切り返しもひょいとかわされる。一向に手応えを受けぬ事態に男は段々と余裕を失い始める。体幹を軸に置こうとしていた考えは剣の空振と共にどこぞへ消え去ってしまったのか、縦横無尽に、正に闇雲といった形で男は凶刃を振り抜いて行く。しかしそれでも敵対する騎士は手馴れた動きでそれを回避し続ける。しかも剣を使わずに、だ。それがまた男に強い腹立たしさを産み付けていた。
(あと一歩・・・あと一歩なのにぃっ!!)
巧みな足捌き、体裁きが毒のように男の冷静さを崩していった。胴体を狙う動きから変則的に足を薙ぎに行くも、それすらあっさりと読まれていたか、軽快で無駄の無いステップで避けられる。
「くそっ、このっ!当たれよっ、この!!」
思いつく限りの剣閃を放ってきた。だが指を締めて投げるように振っても当たらず、握りと手首を固定した回転斬りも相手の動きについていけず、楕円軌道による切っ先落しもまた騎士の鋭き一閃を前に臆してそもそも放たれる事が無かった。知識として知っている全ての斬り方、その一つ一つが騎士の技量と読みの前に為す術無く無駄と化していた。
心身窮し男は開き直り、剣を右腰に構え、相手へと我武者羅に突進する。斬りが駄目なら、突きで決める。その思いの篭った一撃はまたしても騎士の回避でかわされるが、男は相手と擦違った瞬間に無理矢理足を返し、回避した硬直で足が動けぬ騎士の胸目掛けて猛進した。絶対に避けられぬタイミングである。
(っしゃっ!これは避けられーーー!?)
瞬間、足が一気に払われるのを感じて男は前のめりに倒れこむ。だがそれを許さず騎士が詰め寄って男の腹部と肩口辺りを掴み取り、己の身体を反転させ、男を宙で引っくり返すように投げ飛ばした。勢いを逆手に取られた男は背中から勢い良く地面に叩きつけられ、砂がばさりと宙を舞う。苦悶の息を飲み込みながら男は立とうとする。
「っっっっ、ってぇぇっ・・・ま、まだ終わってーーー」
「終わりだ、ケイタク殿」
起き上がりかけた直後、目前に凛と構えられた剣の腹に硬直する。引き攣った頬をそのままに地面に転がされた男、慧卓はそろそろと剣の握り主をの方を見遣った。汗一つ掻かぬ涼しげで凛然とした表情のまま栗色の髪を靡かせるのは、近衛騎士であり慧卓の鍛錬相手、白銀の鎧姿のアリッサであった。彼女は小さく落胆の息を漏らして言う。
「身体を少しばかり鍛
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