第三章、その3の1:遠因の発生
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えていると聞いて期待していたのだがな・・・」
「す、すいません・・・でも俺、鍛えているっていっても山登りくらいしかやってないし、ほら、剣とか握った事無いですから・・・」
「それは言い訳にならん。戦士になる者も騎士になる者も、最初から身体が強健な者など居ないし、そもそも剣や槍を使える人間とは限らんのだ。全員が同じ始発地点に立ち、其処から研鑽を積んでいく。ケイタク殿も同じ地点に立っているのだ。もう一度言うが、言い訳にならん」
「・・・はい」
それはそうだと、慧卓は思う。聞くに王国軍の兵士達等は、多くの者が徴兵により入隊しており、勧誘や徴募によって軍に入った者というのは少数に留まるという。強制に近い状況で武器を握られる、確かに始発地点は同じだ。だが一縷の不満もある。彼らには無い知識が慧卓にはある。史書を啄ばむ小鳥のようなささやかな知識であるが、それは確かに武の世界に、そして文の世界に通用するものだと確信できるのだ。それが故に不遜な自信もまた生まれてしまうのが厄介な所である。
慧卓が起き上がるのを待ってからアリッサは剣を鞘に収め、再び言う。
「さぁ、おさらいだ。構えから確りやってみよう。大丈夫だ、私もこれと同じ遣り方で鍛えてきた」
「分かりました」
「先ずは握りだ。此処を持て。力は抜いて」
アリッサは彼の手を取り剣の柄を持たせる。片方は鍔の直ぐ下を、もう片方は柄頭の直ぐ上を。握り自体は長剣のものとさして変わる事は無く、身体全体の力を発揮するに相応しい握りだ。グラディウスにも似た剣の重みは慧卓の手を伝わり、腕と肩をがっちりと捉えているかのようだ。
「この剣はケイタク殿に会う大きさのものだ。我等にとっては小振りに類するものであまり使用する機会が無いが、しかしその俊敏性と応用性は無視出来ない。これを扱って戦うに必要なのは技量もまた然りだが、もっと大事なのは二つの心構えだ。先手を取れ。距離を離すな」
「分かってます。相手に詰め寄って、それで切伏せるんですよね。相手が反応するよりも早くに」
当然とばかりに力強く放たれた言葉にアリッサは目を細めた。極みを追い求める騎士としての直感が働き一つの危うさを感じたのだ。慧卓にも見られたのだ、新兵特有の無謀さが。実戦無き演習から来る無用な自信により齎される、とても不条理な惨禍。新兵にとっての鬼門に慧卓もまたぶち当たり、そして粉々となる様があっさりと想像できてしまった。
アリッサは声を低く、威圧感を込めて言う。
「・・・ケイタク殿、一つ試しに聞くぞ」
「は、はい、なんですか?」
「戦いと聞いて、貴方は何を思い浮かべる?」
「・・・凄惨で、ある意味予定調和なもの。でもその中に、沢山の人々の沢山の思いが込められている。戦うまでの前提は違うけど、戦地に赴けば、皆死と隣り合わせ
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