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王道を走れば:幻想にて
第三章、その2:西日に染まる
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しょ、慧卓君?」
「ぜぇ・・・へぇ・・・はっ、はぁ・・・そっ、そうですね・・・はぁっ・・・」
「落ち着いてからゆっくりと愉しみなさい。まだ日が沈むまで時間があるから」
「あっ、有難う、御座いますっ・・・はぁ、はぁっ・・・」
 
 荷物を漸く手放した彼は這うように屋上の縁へと向かう。そして柱と縁の間にある僅かなスペースに腰を落とし、柱に背凭れをついて足を投げ出した。ぶらぶらと足が縁から投げ出されて浮遊感に包まれる。
 しかし身が竦んだりはしない。微かに宙を漂う風が短い黒髪をはらはらとひらめかせ、首筋を伝う汗と肌を冷やしていく。まるで縁側でスイカを齧りぼぉっとするかのような穏やかさで、慧卓は言葉も無く燦々とする『セラム』の世界、その欠片の美しさに見蕩れていた。彼の頸元に掛かっているアミュレットもまた、光と風に揺られながら世界を見詰めていた。


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