第三章、その2:西日に染まる
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ありまして、今日が正にその日なのです。この聖鐘に務めまして僅か二年ではありますが、矢張りなんといってもあの『煌日(おうび)の炎』は素晴らしきものです」
「そんなに、凄いんです、かっ?」
「はい。正に神々の悪戯に相応しき壮麗な光景で御座います。絢爛とした西日と清らかな空気。それに照らされる王都の街並みのなんと美しき事か。きっと御二人の心を癒す事でしょう。そう、腐敗した身体を癒す一服の清水のように」
「そうっ、ですか・・・水の勢いで、身体がっ、ボロボロに崩れなきゃ、いいんですけどっ」
呼吸を荒げ、足元を見詰めながら登る慧卓。足が鉛のように重くなり、掌に紐が食い込んで痛みを産み付ける。だが慧卓は一向に歩みを止めず、只管に石段を登り続けた。
ふと、足元の段差が途切れ、平たく続く床が現れた。階段を登りきったのだ。男が階段の先にある扉をぐっと押すと、音と共に埃が赤い光の中に浮かび上がり、緩やかな微風が頸元を撫でるのを感じた。思わずへなへなと荷物を床についてしまい、慧卓は溜まりに溜まった疲労感を味わう羽目となった。
先導する男は嬉々とした表情で進む。彼は四本の柱の中心に支えられた四角錘の屋根より吊るされている、金色の巨大な鐘を愛おしく見遣り、そしてその外へと広がる光景を指差した。
「さぁ、着きましたよ。王都の聖鐘、その栄光の高みに!」
「・・・綺麗ね」
後から続く熊美が静かに言葉を漏らし、慧卓も顔をそろそろと上げた。
言葉にするのも雄大で、神々しい情景であった。夜空の一番星よりも強く輝く太陽が、その煌きで天上を紅に染め上げ、徐々に訪れる闇の蒼と混じって見事な調和を奏でている。煌きの足元に照らされるのは遥か遠くに聳え立つ秀峰の波であり、真っ直ぐに丘に聳え立つ樫の木であり、そして石と木の身体を持つ王都の街並みであった。
手足のように広がるのは茜色の麦畑。微風にひらひらと稲を揺らして夏の薫りを運んでくるかのようだ。腰のように確りと構えられているのは木の家に彩られた王都の外延部。家屋は皆、不思議な懐かしさを感じる穏やかな赤に染まり、その背中の影を枝木のように伸ばしていた。内壁に囲まれた内縁部もいわずもがな、美しきものである。西日の煌きを受けて、木は影を落とし、石は優美な光をその表情に浮かべている。昼間の石の白光は今では唐紅に彩られ、その光は庇の下や柱の間、そして街を行き交う人々の姿を流星のように眺め、覆い被さっていた。人々の顔は陰影定かにならず、それがゆえに優しさと寂寥に満ちてより風靡なものとなっている。
これこそが、王都の聖鐘が見守る世界だ。その壮麗な世界の中、教会の若き神父は朗らかな笑みを浮かべている。
「今年は昨年よりも空気が澄んでいるようだ。何時もより、光が綺麗ですよ」
「本当ね・・・綺麗な街・・・貴方もそう思うで
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