第五十二話 思春期E
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仲直りして、それで……。やるべきことは思いつくのに、行動に移せない。アルヴィンは何度も連絡をとろうとしては、端末にメッセージを送ることができないでいた。
完全に失敗した、とアルヴィンは眉をひそめる。アリシアの言葉に動揺しすぎて、何もかも後手に回ってしまった。あの時自分が、アリシアの言葉を飲み込み、受け止めるべきだったのだ。受け止める振りだけでもするべきだった。そうすれば、アリシアにあんな顔をさせずにすんだ、と彼は小さく頭を振った。
アルヴィンの態度が、アリシアが放っていた言葉が、相手を傷つけるものであることに気づかせてしまった。本来ならゆっくりと冷ますことができた熱へ、冷水を一気にぶっかけてしまったのだ。唐突な怒りと罪悪感に、8歳の子どもの思考が追いつくはずがない。アリシアが飛び出した原因の1つは、アルヴィン自身にもあっただろう。
そして何より、アリシアを追いかけることができなかったこと。アルヴィンが意識を引き戻したのは、コーラルから念話を送られた後だった。その時には、ウィンクルムたちは視界から遠ざかっていく。追いかけるべきだと動かそうとした足が、あの時は何故か鉛のように重く、気づけば彼女たちを完全に見失っていた。
「謝ったらいいのか…? でも、何に対して俺は、アリシアに謝ればいいんだよ」
本来ならアリシアの言葉は、ただの癇癪ですませられるものだった。何もかも平等なものなんてない。どうしようもないことなんて、世界には数えきれないほどある。アリシアが言った言葉は、そんな理不尽を受け止めきれなかった子どもの思いなのだ。
それを大事にさせてしまったのは、間違いなく己自身。アリシアもプレシアも、他の家族も、いや……この世界にいる誰にも、アルヴィンは『転生』のことを言っていない。当然、魔力やレアスキルを望んだ人間であることもだ。
そこまで特別を望んだつもりはなかった。恵まれているとは思うが、魔法が使える人間なんて、この次元世界にはたくさんいる。レアスキルだってすごいものだが、万能なものじゃない。世界最強の力なんてまったくないし、頭脳もない。猫に負け、金魚にも負けるような戦闘力だ。
……それでも、ずるいことに変わりはなかった。この世界の人間の誰に言われても、おかしくないこと。
アルヴィンは一度、リンカーコアがないことに悔やんだ話をした青年に対し、同じようなことを思ったことがあった。だがその時にはすでに、彼は自身の持つ強さで、自ら乗り越えてしまっていた。アルヴィンはその時に考えていたことを、なかったことにするしかなかった。
できることなんて、何もなかったからだ。そのことに、自分が傷ついたり、罪悪感を持つのは、本当にバカなこと。罪悪感を持つぐらいなら、最初から何ももらわなければよかったのだ
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