第三章、その1の3:方々に咲く企み
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薄氷のように空に雲が掛かっている。季節外れの涼やかな風が王都を撫で付けて人々の安眠を誘っていた。遠い昔に幾つもの石により高々と築かれた王都の白き塔、神聖なる儀式の時を告げる鐘、王国の聖鐘(せいしょう)は月明かりを受けて静かに聳え立っていた。
塔の背後にある宮殿にも一つの静けさが広まっており、既に主たる政務は全て終わっているようだ。宮殿の出口に近き中庭にて、慧卓はコーデリアと共に夜風を愉しんでいた。
「今宵は有難う御座いました。お陰でとても楽しい思いをさせていただく事が出来ました」
「いいえいいえ!此方こそ有難う御座います、王女様!晩餐会が終わったと思うと、なんか急に疲れてきまして・・・」
「あらあら?先程までの凛々しき戦士殿は何処へやら、ですね」
「あ、あれは演技です。一度吹っ切れると開き直ったみたいにですね、風評とか見劣りとか、如何でもよくなっちゃうんです」
広間で装った気障な貴族面を剥いだ開放感からか何時も以上に慧卓は疲れを覚えていた。足もステップを踏みすぎて底の方ががちがちと重くなっている。
疲労感でぐったりしている彼とは違い、コーデリアは晴れやかな表情のままだ。随分と踊り慣れているらしく足取りも軽やかなままである。
「でも、貴方が吹っ切れてくれたお陰で私はとても嬉しかったですよ」
「なんとなく分かります。貴族のお偉方が近付いて来なかったから、ですか?」
「ふふ、半分当たりです。皆私がまだ独り身なのをいい事に、彼方此方から変な視線ばかり送ってくるのですよ?」
「ああ、そういえば踊っている最中でも見てましたよね・・・やだやだ、あんな老骨、体力もなくなって来てる癖して如何して強欲面を貼り付けているんだか」
「御老人方は皆欲張りなんですよ。老いれば老いるほど、そういうものになってしまうんです」
昔を思い出すように笑んでコーデリアは答えた。慧卓はそれを見遣りながら続ける。
「それで、半分は分かりました。後の半分というのはなんですか?」
「そ、それはですね・・・」
「それは?」
問うた途端にコーデリアは恥らうように目を背けた。なんとなくその理由を察して早漏ながら心が浮き足立つのを感じつつ、慧卓は答えを辛抱強く待つ。コーデリアは搾り声で言おうとした。
「・・・それはーーー」
『そ、そんな!如何して通して下さらないのです!?』
「・・・なんでしょうか?」
「・・・キーラ?」
ふと中庭を駆け抜けた声に疑問が漏れる。聞くからにそれは裏門の方から発されたようだ。
其処へ足を運んだ二人が見たのは、慎ましい桜色のドレスを召して水色の髪をした女性と、同情しながらもその女性の入門を拒む二人の衛兵の姿であった。
『わ、私はブランチャード男爵の娘、キーラです!貴方々でも分かるでしょ
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