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王道を走れば:幻想にて
第三章、その1の3:方々に咲く企み
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「お話をお聞きしておりました所、キーラ様はご幼少の頃より踊りや歌を磨き、今では見事な腕前になっているとお聞き致しましたので、つい御声を掛けさせていただきたく思ったのです」
「み、見事だなんてそんな・・・私は、唯上手な方々の真似をしていただけです・・・」
「それでも素晴らしい事です。唯一つの事に其処まで心身を費やし、そして研鑽の末に見事な美を手にしたのですから。ねぇ、王女様?」
「わ、私もですか?そんな私なんて、夫人方に比べて見劣りしますよ・・・絶対」
「それでもどうか述べさせて下さい。お二人とも、紛う事無き傾城の美をお持ちです。口にするのもおこがましく聞こえますが、どうぞお聞き入れ下さい」

 口からするすると飛び出す言葉は普段の彼から見れば違和感しか感じられぬほど過度に丁寧である。だがその言葉には嘘偽りはない。月光の中庭の中に佇み髪をさらさらとひらめかせる二人の姿は、それこそ麗しき純情可憐の若花である。
 慧卓の言葉が届いたのか、付き合いがあるコーデリアは傍目になりつつ妙に口を尖らせている。彼女なりの照れであろう。対してコーデリアは暗い中でもはっきりと分かるほど頬を紅潮させていた。初々しき反応に気を良くして慧卓は続ける。
 
「そしてその麗しき美と、此処で別れの手を振るのは実に惜しいのです。ですからどうか、此処で一つ、私と舞踊に興じて頂けませんか、キーラ様?」
「え、ええっ!?」
(俺、なんでこんなノリノリなんだろ・・・後で絶対後悔するぞ)

 自分から見れば余りにも気障に振舞いすぎて痛々しい程。確実に後悔の思い出として刻まれるが、今の状況から見れば相応しい態度である。若き紳士として振舞った彼の労は無事に報われた。

「いいじゃない、踊りなさい。折角此処まで足を運んだのに、何の思い出も残さずに唯家路につくというのは、とても寂しい事よ」
「コーデリア様まで・・・分かりました。恐縮では在りますがケイタク様との舞踊、慎んでお受け致します」

 ドレスの端を持ち上げて礼をするキーラ。慧卓もまた礼を交わし、彼女の華奢な手に向かってそっと己の手を差し伸べた。キーラはそれにゆっくりと手を載せて慧卓の下へ近付く。薄暗闇から徐々に近づいていく明眸皓歯の姿に慧卓は思わず感嘆の息を漏らした。桜色のドレスに、清流のような慎ましさと神の御告げのような神秘さを併せ持った水色の長髪が美しく踊り、宝玉のような翠の瞳が上目遣いに見遣ってきたのだ。

「綺麗だ」
「っっっ、は、恥ずかしいです・・・」
「ご、ごめん、つい・・・」

 赤らみを増すキーラに慧卓は思わず謝罪を述べた。二人は目をついと逸らしながら、互いの腰に手を宛がって繋いでいる手をそっと横に伸ばした。そして風が一つリュートのように軽やかに靡いた時、二人は自然と足を運んでいく。中庭の石
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