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王道を走れば:幻想にて
第三章、その1:冷え込んだ拝謁
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 見知らぬ異界に放り出されて無我夢中のままに苦難を乗り越えた慧卓青年の眠りは深い。眠りに就いたのは月が頂点に達する前の事。この世界にとってみれば充分深夜であるが、彼にとってはまだ浅い時間帯。疲れ気味の身体はその頃にはすっかりと眠気を覚え、手触りの良い布団の温かみに心を落ち着けたのだ。
 時は、小鳥が囀り東方より光が昇る頃。セラム人に曰く、生活が寝具を干す時間である。燦燦とした光が窓から差して寝顔を当てるに関わらず、慧卓は鼾も掻かずに眠りこけていた。趣向を凝らして微細な部分まで粋を通したインテリアに囲まれながら天蓋付きのベッドに眠る彼は今、貴族の贅沢の一つを夢中で味わっていた。
 とんとんと、軽く戸を叩く音がする。

「・・・失礼致す、ケイタク殿」

 中に入ってきたのはアリッサだ。彼女もまた起きて直ぐなのか鎧姿ではなく、清楚な白のネグリジェに水色のカーディガンをそっと肩に掛けた格好である。彼女はそのままベッドに近付き、慧卓のあどけない寝顔に息を呑んだ。

(これは・・・これで、中々・・・)

 思わずまじまじとそれを見詰めていると、両手で握り締めていた桶が傾いて中の温水が毀れそうになる。小さな悲鳴を出してそれを戻し、ベッドの隣に置いてあるサイドテーブルの上に置く。清潔な布に温水を浸せば、寝汗と寝癖取りのタオルの完成である。 
 何故侍女の仕事をアリッサが代わりにしているかと言うと。

『ケイタク殿は私が起こす。桶を貸せ』
『しかしアリッサ様。これは近衛騎士様のお手を煩わせるような事ではありませぬ。どうか我等侍女の者にお任せあれ』
『いいから貸せ!そ、その、私が彼を起こしてやりたいんだ!』
『どうぞどうぞ、お貸ししますわ!後でちゃんと、あの方の事を私共に話して下さいね!』

 口にするのも憚れる乙女心の仕業でもあったのだ。
 アリッサは手の水気をさっと払うと、慧卓の肩にそっと手を遣って揺すりながら、寝起きの彼を労わるように優しい声を掛けた。 

「ケイタク殿、起こしに参りました。起きて下さい」
「・・・・・・ん・・・アリッサさん・・・?」

 惚けたように細目を開けて、慧卓は瞼に指を擦らせながら身体を起こす。むぅと唸りながら起きる様子は幼げのあるものであり、中々に保護欲を煽る容姿でもあった。
 慧卓はうつらうつら頭と揺らしながら返事を返そうとする。

「おはようございま...ぐー...」
「寝ては駄目です!朝餉はしっかり取らねばなりません!さぁ起きて!!」

 柔らかな布団に倒れ掛かる慧卓に痺れを切らして、アリッサは彼の頭を枕に戻すと一気に布団を除けた。腰を半ば過ぎ辺りで布団が返されて二つに畳まれる。視点を慧卓の顔に返そうとした時、アリッサは余計な物を見て硬直した。

「あっ...」
「・・
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