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王道を走れば:幻想にて
第三章、その1:冷え込んだ拝謁
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 慧卓は先ずチーズを口に運ぶ。バームクーヘンの断面にも似た黄色のチーズだ。常温にて固体を保ったそれが、咥内では熱と唾液に当てられて俄かに溶け始めていく。咀嚼する度にチーズ独特の芳醇さを抑えながらも香りの良い味が舌に広がり、朝起きの敏感な食感にとってとても優しい味わいであった。
 ちらと目を向ければ、熊美はパンから、アリッサはブイヨンから、コーデリアはチーズから朝食を始めたらしい。好みが王女と被っているなと、慧卓は心に僅かに喜色を浮かべた。

「それでは、今日の予定の説明をさせていただきますわ」

 四者それぞれが朝食を頂く中、食卓の傍に控えていた侍従長のクィニが、手元の小さな縦開きの巻物を広げながら説明する。  

「朝餉が終わりましたら皆様揃いまして、国王陛下を初めとして宦官の方々が集う『王の間』に向かっていただきますわ。其処で王女様がハボック指揮官殿と此度の遠征の結果を報告。その後に、お二人を紹介するといった形になります」
「・・・いよいよ謁見、ですか」

 スプーンで味が染込んだブイヨンを嚥下しながら慧卓は呟く。胸中に俄かに緊張が走るのが見え透いていたのか、クィニは優しげに告げた。

「国王陛下は寛容で、慈悲深き御方にあらせられます。ケイタク殿が誤って礼を欠いたとしても、笑って許してくださる御方ですよ」
「しかし心配なのはなんといっても宦官達です。あの方々の老獪な術中に嵌れば、それだけで私の地位も危うくなるほど。精一杯の擁護をする次第ではありますが、どうかご油断なさらぬように」
「・・・宦官ね。要注意といったところかしら?」
「俺の歴史の知識では、その言葉に余り良い印象はありませんね・・・」

 彼にとっての宦官で一番記憶を占めるのは、後漢王朝の凄惨な末路における宦官達の暴走である。まさかそっくりそのままの同じ存在が此処に居るとは思えないが、それでも不安が一縷、心に浮かんできた。

「何はともあれ、先ずは栄養補給、エネルギー充填ね!さ、食べましょうか!」
「ですね」

 熊美の言葉に従って、慧卓はパンを胃の中に落して不安ごと消化していく。千切ったパンをブイヨンに少々染込ませるのが中々に旨みのあるものであり、これは良いと慧卓は朝食を嚥下していった。
 それでも気丈を振舞う彼を心配してか、コーデリアが熊美へ強い瞳を向ける。彼女の心を悟った熊美は僅かに口端を歪めて頷いた。



 朝食を終えた後、アリッサは王の間にて宦官警護の任を全うしに消え、残された三人は静かな緊張の下に暫し待つ。衣装は既に整えている。コーデリアは優雅なドレスを、慧卓は『ウールムール』で見繕った学生服紛いのそれを着ている。熊美は元騎士とあってか鋼鉄の鎧を見事に着こなしていた。

(やだ・・・なにこれ・・・鎧一式だけで50キロあ
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