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王道を走れば:幻想にて
第二章、終幕:初旅の終わり ※エロ注意
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す」

 そう言って彼女は部屋の奥の方、湯気が立ち込める扉の向こう側へと姿を消した。
 
「・・・脱がしてくれないのね」

 慧卓は僅かに開けられた口から空気を零しつつ、いそいそと服を脱ぎ、棚の上に置かれた籠の中にそれを積んでいく。
 動作は迷いの無いものだが、表情はいたく真剣なものだ。突然舞い降りた驚愕のイベントを前にして、緊張で胸中に太鼓が打ち鳴らされている。

(落ち着け、慧卓。落ち着くには?自分に言いつけろ。・・・私はクールです。クールな男子です。堂々としなさい。奉仕大好き、ビバクールビズ)

 自分で思ってて理解不能である。だが少なくとも、無駄な期待を抱くような浮かれ気分で居る事は無くなった。
 これは唯の湯浴み。身体の垢を取るだけの単純な水浴び。慧卓は清潔な腰布を巻きつけてから扉の向こうへと進む。
 その先に広がっていたのは広々とした浴槽であった。丁度部屋の中央に浴槽が置かれ、二段の階段を周りに囲んでいる。床に敷き詰められたタイルは、一枚一枚が白く磨きぬかれた大理石である。タイルとタイルと間の溝には熱い水滴が通い、タイルに一粒の煌きを添えていた。
 浴槽の傍にリタが、これまた肌触りのよさそうな白いタオルと、細長い一つの瓶、そして小さな鉤のような見た目をした木製の道具を持って控えていた。

「ケイタク様、此方へ。先ずは身体の垢を取らせて頂きます」

 慧卓が浴槽へと進み、階段の上に腰を下ろす。リタが瓶の蓋を取ると薫りの良い油の匂いが漂ってきた。
 
「失礼します」
「っ・・・」

 リタはそれを慧卓の肩先から垂らし始め、自分の柔らかな手を使って慧卓の身体に塗りこめていく。ねっとりとした液体が柔和な手付きにより薄く広められる感触は、なんとも奇妙で、そして心地の良いものである、筈だ。何故なら慧卓は緊張どころでその心地良さを味わえていないのだから。 

「どうぞ、心を緩やかに。肩を張り詰めては、湯浴みの醍醐味を損なわれてしまいます」
「あああ、あのですね、これ結構恥ずかしいやら緊張するやらで、醍醐味とかそんなレベルじゃーーー」
「どうぞ、緊張なさらずに、ケイタク様」
「・・・頑張ります」

 膝に手を当てて頭を俄かに垂れる。その間にもリタは奉仕を続けている。
 油の塗りを終える。次はそれと一緒に肌に付着した汚れを落すように、木製の鉤を用いて慧卓の肌を掻き始めた。むず痒い感触に瞳が僅かに開くが、慧卓は堪えてリタとの会話を愉しむ。

「・・・意外と引き締まった身体をお持ちで。幼少の頃、鍛錬の御経験がありましたか?」
「え、えぇーっと、ちょっと昔に、よく山を踏破したりしていました・・・はい」
「まぁっ。私の弟も、昔から自然を駆け巡るのが大好きで、今でも王国を鋒鋩と歩いて周っているのですよ」

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