暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第二章、その6:王都
[7/10]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
たところから生まれるモノであろう。片や歓迎する者の視線といったら、神秘の到来を歓喜するようなものではなく、寧ろ噂の種が目の前に現れる事に単に喜んでいるだけのように見えた。民衆にとって異界の若人という存在は、存外特別視されるものではないらしい。    
 二人の異界からの訪人の間を、アリッサは馬半身抜きん出るようにする。途端、その美麗な姿を捉えた民衆、とりわけ若い女性等から黄色くも獣染みた歓声が轟いた。

『お姉さまぁぁぁっっ!!アリッサ様ぁっ、こっち向いてぇぇ!!』
『きゃああああっ!!!御姉様ぁぁっ、こっちに手を振ってぇぇぇ!!!』
『ねぇ見たっ!?見たぁっ!?今私に微笑んだわよ!!絶対微笑んだ!!』
『あれは私に向かって微笑んだのっ!!あんたに向かってやったんじゃないの!!アリッサ様ぁっ、私を抱いてぇぇぇ!!』
『ちょっと!!自重しなさい、この馬鹿痴女!!アリッサ様ぁぁっ、私をなじってぇっっ!!』
「・・・うっはっ、こえぇ・・・」

 その勢い、行き遅れとなる事を畏れて男を心身的な意味で貪る雌豹に似ても似つかじ。而して顔は喜色に満ちている。目の前に現れた新たな人種に慧卓の顔は引き攣り、アリッサはアリッサで同様の表情を浮かべているのだが何処か得意げな雰囲気を醸し出す。人気なのが嬉しいのは分かるが、あんなファン層相手に大丈夫なのだろうか。

(それにしても、結構大きくて複雑な街だな)

 民衆に対する様々な思いを抱きながら慧卓は一方で、ちらほらと街並みを見詰め直す。
 外延部に近いほど木の造りをした家が、内縁部、即ち宮殿に近付くほど石造りの家々が立ち並ぶ王都。謳い文句を記したり、或いはどの店か分かるよう簡単なマークが書かれた看板が目立つ。剣と盾なら武具店、薬瓶なら薬品店、酒瓶や豚のマークならば宿屋等。所々横合いに通りや細道が貫かれており、また別々の通りと繋がっているのが見える。円形状に広がる王都は思いの外入り組みが激しい都でもあるようだ。

(・・・ってか皆、夏服みたいな格好だな) 

 民衆の格好を見て、ふと慧卓は思う。討伐軍の帰還とあってか公私や貴賎の違いも問わず多くの者達が通りに出たり、或いはバルコニーから顔を出している。貧しき者達、というよりも一般庶民の多くがは古びれた麻服を纏っているようだ。それが慧卓にとっては、夏服に何処か似ているような格好に思えた。
 少し遠めに目を遣れば、一般庶民から距離を置いたところに高貴な身分らしき者が居た。何故判るかというと、麻服の上に上質そうな毛織物を羽織っていたからだ。庶民の只中で逆に浮いている格好をしているその小太りの男は、禿げが侵攻している額に皺を寄せながら、熊美を厳しい視線で見詰めていた。慧卓の視線に気付くと、男は白い帽子を被ってそそくさと背を向けて去っていった。差し詰め
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ