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王道を走れば:幻想にて
第二章、その6:王都
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 老人の言葉に少年は、了解したとばかりに強く頷いた。

「・・・それにしても、ワーグナーの街を賑やかした祭事か。御面に焼き鳥、愉しきかなと。中々どうして奇抜な事を成功させる。矢張り異界の者は面白いな」
「彼らが街を出立したのは、確か四日ほど前。そろそろ王都に到着する頃合でしょう」
「うむ。事を確かめるはそれからでも遅くは無いさ」

 老人はそういうなり立ち上がり、カーテンをばっと開いて夏風を全身に浴びる。眼下の整然として美麗な街並みの先には質素な家屋の集まり、そして田園地帯が順々と広がる。その向こう側、今年で丁度樹齢百年の樫の木が聳える丘の辺りから、彼らの姿が見受けられる事であろう。

「さてさて、どのような男であるのかな」

 愉快げに口元を歪める老人を見て、少年はすこぶる機嫌悪そうに丘向こうの異界人を睥睨した。





「・・・さて。これでよろしいか、ケイタク殿」
「待って待って待って、ちょっ、ちょっと待って!もっかいおさらいしときましょう!!」
「落ち着きなさい。どんなに焦ろうとも、来る時は来るんだから」

 行軍最終日。時刻は正午過ぎ、街の人々は丁度腹が満ちた頃合であろう。その満腹感を肴に、彼らは誉れ高き王国塀の凱旋を見遣る事となろう。兵達の中にもそれを見越してうきうきとする者や緊張する者が見受けられるが、全体としては何時も通り堂々とした様子である。況や高位の者達も肩を張る事無くリラックスした様子だ。
 だがその中で、今日の慧卓は一味違う。見栄えがするようにとコーデリアの強い押しがあった結果、拙い手捌きではあるが、一人で馬を乗っているのだ。急な雨にも見合うような天候でもなく、また今日は己の存在を誇示するために走駆する必要も無い。故に堂々であるべく、馬を一人で操るのだ。
 そんな彼が行っているのは知識の総確認。特に、王都で過ごす以上知っておくべき常識云々である。

「ええっと、王都には色んな人達が居て、王様が居て、それから王都は大きくて...」
「はぁ・・・王都の中心部には城や貴族の屋敷、それに軍事施設がある。それを囲むように商人や民草の住宅が軒を連ね、城壁と門を隔てた外縁部には町が広がり、更に外側に農園部がある」
「其処は実物を見れば分かるから大丈夫。それより、他の方が大事よ。例えば、歴史とか」
「またですか、クマ殿?」
「歴史に身を連ねない国家や都市なんて・・・蛮族の国だけよ」

 そういうクマを理解できなくも無いのか、アリッサは納得の首肯を何度かして語っていく。

「まぁ、聞くまでも無いがおさらいだ。三十年前の戦争の後、帝国の傀儡となった王国を牽引したのが新国王となったヨーゼフ執政官。その後、十数年近くを王国再建に費やした後に崩御。新たに当時の国務大臣であり、ヨーゼフ国王の
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