第二章、その6:王都
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「・・・・・・成程。面白い話だ」
「祝祭はかなりの盛況でありました。あれを行った結果、街に活気が漲り、今では物資や財貨がより勢いを増して流通している模様です」
王都の己の執務室にて、レイモンド執政長官は応用に頷く。夏の熱々とした日差しはカーテンにより遮られているがその熱気までは防げてはいないようであり、焦げ目のある皺のよった額に汗が浮かんでいた。隣に立つ美顔の少年、そして彼に報告する小太りの男もまた同様である。吹き込む夏風がばたばたとカーテンを揺らし、少年の髪をひらひらと揺らした。
「噂を聞きつけて今は各地の商人等もあの街に向かっているとか。而して残念ながら、あのような大規模な活動を行う事はワーグナーの手腕だけでは不可能でしょう。もっと肝心なものが必要です」
「うむ。あれは貴族が行う事ではない。寧ろ民草が主体となって行う事だ」
「・・・如何なさいますか。あれは徒に民草の勢いを後押しする活動になり兼ねません。仮に過激派につけこまれれば、それこそ奴らの助長に繋がるでしょう。此処は一つ、祭事の恒久的な中断をーーー」
「それこそならん。衆目が集まっている中、我等中央が露骨に介入したとなれば、唯でさえ強硬的なあ奴らを説得する事も適わん。それだけは避けねばなるまいて。・・・それに祭りを愉しみにしておるのは何も商人や民草だけはない。そうだろう?」
「・・・奇天烈な仮面ですね?」
「・・・」
少年の言葉に対して小太りの男は妙な目つきで、腰に吊るされたうざくも愛敬溢れる顔仮面を見遣る。祭りの土産とばかりに帰還してきた間諜から渡されたものだが、男の価値観からすればいたく不可思議な面相をしたものである。眺めているうちに愛くるしく思えてくるらしいが、少し理解出来ない。
レイモンドは切り上げの口上を言う。
「報告御苦労。今しばらくは要たる用事も無い。お前は常の職務を遂行しながら、王都にて待機せよ」
「承知いたしました」
「それとお前が食ったという焼き鳥。美味かったか?」
「は?」
「美味かったか?」
「・・・は、はぁ。大変な美味でありました。肉もさることながら、矢張りタレがなんとも美味で御座いまして」
「そうか・・・。任務ご苦労であった、下がってよい」
「はっ!」
小太りの男は胸に右手を当てて足を鳴らす敬礼をすると、少年を一つも見遣る事無く背をくるりと回して部屋を早々に退出していった。
「奥方に作らせる気ですな?」
「あ奴の話を聞いているうちに、美食家としての欲が沸いて来たのだよ。しかし焼き鳥か・・・どのようなものだろうな?」
「鳥類を焼いたものならば既に我等も常日頃から幾つか食しております。鳥を扱う以上、外観は大して変わりがないでしょう。となると、問題となるのは矢張り・・・」
「・・・・・・タレだな」
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