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王道を走れば:幻想にて
第二章、その5:衣装変え、気品な方角
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「すっかり忘れていました」
「何がです?」
「貴方の服を買う事」
「あー・・・」

 祭りを終えた次の日の朝、朝の紅茶を取りながらコーデリアはふと思い出した。宮殿にて必要となるであろう、慧卓の紳士服を用意していない事を。慧卓は腰の辺りの倦怠感を気に留めつつ、それを思い出した。

「祭りに浮かれてうっかり忘れてしまいました・・・あのアップルパイ、美味しかったな・・・」
「・・・また食べに行きますか?」
「い、いいえっ!また食べたら絶対食べすぎちゃいます!宮殿でドレスが着れなくなります!太るのだけは嫌っ!」

 嫌悪するような目付きで紅茶の湖面を睨むコーデリア。その勢いに圧されて慧卓は微苦笑を浮かべ、すすと紅茶を啜った。檸檬の果汁が入っているのか、茶の深みの中にそっと浮かぶ程好い酸味が寝起きの舌に染み渡る。  

「さ、さぁ!今日こそはちゃんと目的を果たしに行きますよ。紅茶を飲んだら行きましょう、ケイタク様」
「了解です。して王女様、何処の御店に向かうのですか?」
「この街で一番の仕立て屋、『ウールムール』です。昔は私のドレスも、何着かあそこで作っていただきました」
「王族の方も御贔屓にされているならば、きっと素晴らしい衣服を仕立てていただけるでしょうね」
「きっとじゃなくて、必ずですよ。あの人の腕前は、王国一ですからね」

 少し誇らしげに語るコーデリアの顔を肴に、慧卓は紅茶の残りを嚥下していく。小鳥の高らかな囀りが耳を和らげていき、慧卓はこれからの愉しみに一層の期待を寄せていった。
 その二人を離れた座席にて、二人の高貴な身分の者がちらちらと窺っていた。

「・・・ワーグナー殿」
「・・・アリッサ殿」

 一人、暇を持て余すアリッサ。もう一人、職務を放り出すワーグナー。思慮深げに視線を交わして二人は囁きあう。

「聞きましたか?『ウールムール』ですぞ」
「あぁ聞いたぞ。確かにあそこは貴族の衣服やドレスを仕立てる衣料店、老舗中の老舗だ。だが裏では・・・」
「えぇ・・・しかし裏では」
『ふひひひ・・・』

 両者は表情に似合わぬ下賎な含み笑いを零す。貴き者に相応しき美顔と威風ある顔立ちが、一瞬にして洞窟の盗賊が略奪した銭を数える時のそれとほとんど同じ顔となった。 

「これは千載一遇の好機ですぞ。慧卓殿の紳士服姿というのも興味をそそられますが、本命は矢張り王女殿下・・・」
「あぁ、コーデリア王女も、あの店では唯のうら若き絶世の美少女となる」
「さて、どんな物をお好みになるのか、どんな姿になっていただけるのか、楽しみで仕方ないですな」
「全くだよ・・・ふふふふ」
「ふははは・・・」
『ふはははははっ!!』

 耐え切れぬように高笑いを漏らす二人。宿屋にいる者達が一瞬彼らを見遣るが、二
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