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王道を走れば:幻想にて
第二章、その5:衣装変え、気品な方角
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前に佇む質素な服を纏った二人の男女の顔を知っていたからこそ、その二人が高貴な身分の御方であるからこそ、彼女は再び頭を真っ白にしてしまった。男は問う。

「む?どうかされたかな?」
「いいいいいいい、いえいえいえいえいえ、ようこそいらっしゃいました!華麗な衣服より素朴な真心まで揃える、『ウールムール』への御来店、誠に有難う御座いますっ!!ささっ、どうぞ中へ!」
「うむ、そうさせてもらおう・・・良かったな、バレてないぞ」
「えぇ、そのようです。この変装も案外頼りになります」

 トニアに聞こえぬ小さな声で男女が囁きあう。さも年齢差のある恋人同士を演じる二人を後ろ目で見ながらトニアは思う。

(あわわわ、来たぁぁっ!造営官が来ちゃったぁああ!!デート!?アリッサ様とデートなの!?)

 狼狽するトニアを横目に『ウールムール』へと来店したアリッサとワーグナーは言い合う。 

「ふむ、矢張り『ウールムール』に来たとなれば、あれだな?」
「えぇ、あれですね」

 一直線に彼らが向かうのは、試着室の隣に設えられた店棚である。其処に畳まれて置かれていた正装をワーグナーは広げ、端々にまで目を通して感嘆の笑みを漏らす。

「ふふふふっ、矢張りこれは良いっ!これこそが魅惑の仮装、『ウールムール』の真髄よ!流石の腕前だ、キニー」
「・・・これ、このふりふり・・・凄く可愛い」

 アリッサはアリッサで、木人形に着せられた、桃色と黄色を組み合わせた御伽噺のような可憐なドレスに目を奪われていた。

「よしっ、ちょっと試着してみるか」
「・・・私も、そうしよっかな」

 そそくさと両名は好みの服を掴み取ると、それぞれ別々のスペースへと消えて行った。その様子を見届けてからトニアもまたフロアの奥へと消えてゆく。
 幾許も時が経たぬ内に、先にアリッサ等がカーテンを開けて新たな己を御披露目した。ワーグナーが着用しているのは、恰幅のよさを強調した上質の黒い衣服だ。袈裟懸けに質感の良いそれを纏って腰辺りでベルトで締め上げ、その上から鷲の刺繍を施した赤いマントをさらりと羽織っている。元々の威厳のある風体が衣服との相乗効果により、より端然としたものとなっていた。

「ふふふっ・・・素晴らしいぞっ。この二段腹さえも美点となりおったわ!」
「・・・・・・何時かこういうの、もっと着たいなぁ」

 対してアリッサが身に着けたのは、可憐さを一字に顕したかの如きドレスである。木人形が召しているような鮮やかな色をしてはいないが、それでも薄らとした桜色がドレスに散りばめまられ、まるで少女の淡い恋心を象徴しているかのようである。項から肩口近くまで露出して、腕の袖口とドレスの端にひらひらをあしらったそれは宮廷で召すような気品ある衣装とはいえず、寧ろ乙女心燻られる
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