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王道を走れば:幻想にて
第二章、その4:甘味の後味
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すよ!」

 部屋の隅で縮こまっているような世風を吹き飛ばすが如く、商人小悪党が財貨と物資を投げ打って見世棚を開き、兵と役人がそれを統制して秩序を齎す。公民の協力の下繰り広げられる一大イベントに、どうして街の者共が参加しないであろうか。
 この光景を作り出した切欠である慧卓は、予想以上の規模の大きさに内心で冷や汗を掻きつつもそれを表に出さず、気障な笑みを作り上げてコーデリアに手を差し伸べる。

「さぁ、王女様。恐縮では在りますが、この私めがエスコート致しましょう」
「...ふふふ、じゃぁ今日はお言葉に甘えて、お願いしますね」

 差し伸べられた手をコーデリアが握る。その小さくも温かみのある柔らかな感触に、慧卓は己の心臓が一拍、鼓動を震わせたのを感じた。
 両名は手を繋ぎ、人々の流れに従うように通りを歩く。初々しく握られた掌より伝わる温度。木漏れ日に葉陰から差す陽射のように温かで、それに光を帯びている気さえしてくる。恥ずかしさからか、両名の距離は幾分か開けられているようだ。人それを初恋の距離と言うが、内心でドキマギしっぱなしの慧卓にはその言葉は届く筈も無い。
 稀代の美少女のエスコートという大役を背負った彼はその重責を感じさせぬ、朗らかな口調と態度を崩さず、王女に思い切った事を語りかける。

「き、今日は街の大通りを貸し切っての一大祭事です。此処に集う者達は、今日に限って皆無礼講です。王女様も、いえ、コーデリアも今日は一人の少女でいいんだぞ」
「...あの...よろしいのでしょうか?王女たる私が、そんな事までして...」
「いいと思うよ。此処は宴の広場。祭りにはしゃぐ人達に貴賎の格差は無いんだから、って...」

 慧卓の足が止まる。その視線を追いかけたコーデリアは、彼と同じく一瞬立ち止まってしまう。
 屋台に鉄板を敷いて、串に刺さった鶏肉を焼いている熊美が其処にいた。ご丁寧に花柄のエプロンを鎧の上に纏い、スキンヘッドを清潔な三角巾で覆っている。見た目がごつい中年過ぎの巨漢であるだけに、斬新過ぎる光景であった。

「...クマさん、なにしてはるんですか」
「見てわからないの?屋台よ、屋台」
「いやそれは分かるんですが、なんでよりによって焼き鳥?」

 赤味を帯びた肉につけられるタレが鉄板に毀れ、実に空腹感を擽るような焦げる音を炊きつけて来る。肉の間、間に刺された葱もまた焦げを見せてタレを吸い込んでいる。

「お手軽でしょ。序でに言うと材料が用意しやすいから。そこのお兄さーーん、よってかなーい!?今なら御安くしとくよー!!」
「もう完全に唯の商人ですね」
「クマ様...意外と似合ってます」
「まぁ、ありがとうね、コーデリアちゃん」
「ちゃ、ちゃんって...!」
「ほらさ?格差なんて全く意識して無いだろ?
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