第二章、その4:甘味の後味
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間から覗くのは、まるで愛猫のような愛くるしい顔立ち。気の小さそうな垂れ目に、保護欲を誘う幼げな感じの口元。均整の良いパーツ一つ一つが、今ではすっかりと焦りの色に染まって歪んでいた。
(おいおいおいおいっ、マジかよっ、マジで殺しかよ!?)
表情とは打って変わって勇ましい口調で内心でどぎまぎとする少女。人を屠って以後全くといっていいほど移動したりしない男に怯えながら、岩陰に縮こまって必死に声を殺す。
ふと、男が声を掛けた。
「...おい、其処の者」
(気付いた!?いやそんなわけないっ、唯其の手の人しか見えない何かを見ているだけ...ってそれも怖いよ!...そうだ、幻覚だ!そうっ、あの人は幻覚を見てるんだよ!それに話しているだけでーーー)
「其処の岩陰に隠れている者。顔を出さねば、岩諸共斬り殺すぞ」
「はいいい!!!な、な、な、なんでしょうかっ!?!?」
少女は脊髄反射の如き速さで立ち上がり、気を付けの構えで男に応えた。
「王都はどちらの方角だ?」
「へ!?あああっ、王都はですね、あっちですっ!ずっとあっち!!」
あっちにそのまま消えてしまえといわんばかりに勢い良く一方を指差す少女。顔は恐怖で引き攣りながらも稚拙な笑みを見せる。男は僅かに逡巡して、考えが纏まったのか少女に言う。
「...君、王都まで案内しろ。これは依頼だ。給金は払うぞ」
「ええええっ、嫌ですよ!!なんで見ず知らずの殺人狂を王都なんかに送らなきゃーーー」
「ほう」
「いいえ大丈夫です!案内します!!行きますよ!!行っちゃいますよ!!!」
きらりと光る剣先に一気にびびり、少女は先導するように森の中を歩き始めた。
溜息が毀れそうになる口元を引き締めながら、内心で自分を叱咤した。
(嗚呼、これも盗賊の悲哀なのか。唯の帰り道でこんなのに出くわすなんて。頑張れあたし...頑張れパティ。きっと明日は良い事あるって...)
少女は期待に縋るような目付きで空を見遣る。高きに居並ぶ枝木の合間から、鼠に齧り付かれたチーズのように形を変えた、黄色の月が光を放っていた。
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