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王道を走れば:幻想にて
第二章、その4:甘味の後味
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うな黒い装束が覆っている。ひしと腰溜めに構えられたその手の中、一振りの剣が禍々しい光を放っていた。体躯に突き立てれば、背中を越えて胸を貫き尚余る刀身であり、人を殺すには充分すぎる凶器であった。
 痩せ身の男は地を駆け抜け、男の背中、その奥に潜む肝臓目掛けて剣を伸ばした。完全に隙を突いた一撃。逃れられようの無いその一突きを、ローブの男は自然に、まるでそう決まっていたかのように身を横に退けて避けた。そして無様に突き出された男の身体を見遣り、凄惨な笑みを浮かべる。

「ぁっ...」

 空振りに終わった剣先を見詰めて絶句する男。完全に不意を突こうと身体を投げ出したために、退避する事が適わない。その呆気の無い表情を見詰めながら、男は上段に被った剣を真っ直ぐに、男の腹部目掛けて振り下ろす。森を走ってきた音と比べ、一際鋭く高調子の音が響き、痩せ身の男の後背を捉えた。刀身が肉に埋まり、瞬きの如き速さで身体の中を駆け抜け、反対側の肉の層を突き破った。
 痩せ身の男は勢いのままに大地に転がる。身体が一気に軽くなったかのような感触と、溶岩を髣髴とさせるような熱が、下腹部から下を走っている。今更ながらに逃げようとするも腕に力を入れて身体を起こす。そして振り返って見た情景に息を呑む。濁流のような鮮血を零し、男の下腹部から下、即ち下半身が地面に転がっていた。裁断された肉の層に太目の骨が見える。そしてそれ以上に、饐えた臭いを放った腸が無様に毀れているのが見えた。
 恐怖からか、それとも怒りからか、わなわなと痩せ身の男が震えた。刀身にべっとりとついた鮮血をそのままに、ローブの男が言う。

「...なんとも、哀れな最期だな、お前」
「っぁぁ!」

 痩せ身の男は仰向けとなり、最後の抵抗を試みる。といっても、力の入らぬ手で剣を握り、蝿が止まるような速さで剣を振るだけである。不意打ちを見事に避けて閃光の如き剣閃を振るうほどの武技を持つ男が、どうしてこの一撃を喰らおうか。
 痩せ身の男の剣が地に触れた瞬間、それが上から踏みつけられる。そしてローブの男が勢い良く、死に瀕した男の頸に剣を突き立てた。ざくりと、艶かしく厚い音が鳴って、地に伏せた男は突如として抵抗を止める。剣先が肉を突き破り、脊髄を裁断したのだ。剣を引き抜けば流血が始まり、地を更に穢して生臭く染めていった。
 その無情なる一部始終を、一人の女性が付近の岩陰から見詰めていた。小さな身体を覆うのは軽装の、黒々とした衣服だ。身体の節々を魅せるかのように、生身の肌が所々にざっくりと露出している。それでも意外にも女性らしい膨らみを保っている部分は確りと隠されていた。腰の後ろに二振りの短刀が回されて、鞘に収まっている。そして夕餉頃の一刻手前の夜空を想起させるような紫の頭巾で、後ろに束ねられた銀髪を覆っていた。
 銀の髪
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