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王道を走れば:幻想にて
第二章、その4:甘味の後味
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するように天から大地を睥睨し、優雅に黒き翼を広げていた。



 夜の帳が降りる。
 夏草が香り冷ややかな空気の中を香り、ちりちりと虫達が闇に着け込んで愛を囁いている。そっと目を凝らせば、地べたを這うように進む昆虫も見受けられるかもしれない。順風一つ荒ぐ事も無い。幾重にも暗闇のベールを羽織った木々は、卒塔婆のように屹立して人の立ち入りを招いているかのようである。
 そんなありふれた森の中、静謐を翻すかのような鋭くも剣呑な音が響き渡る。虫にも木々にも出せぬ、風を切り裂く音だ。それに混じり、ガシッと、まるで何かを踏みつけるような音が時をおいて鳴っていた。
 二つの音の中心、静謐の森林に潜むように一人の男が立っていた。地面の色とそう変わらぬ茶褐色のローブを纏っており、顔付きが露も見て取れない。だがその口より静かに毀れる緊迫した息、そしてその両手に握られて、自然体のままに下ろされた両刃の剣が、男の正体を如実に語りかけている。此の男は只者では無い。己を守るためならば殺生も躊躇わぬ、冷血が通う者だ。

「......いい加減諦めたら如何だ?」

 男は虚空の中に言葉を放つ。幻覚に囚われている様なものではない、明瞭とした声だ。男の言葉は真っ直ぐに、闇の中に潜む暗き影に向けられたものであった。
 男は剣を握り直しながら続ける。

「分かっているだろう?貴様には俺は殺せぬよ。苦痛を乗り越えて正道を歩む俺に、邪道の剣が通じる訳が無いだろう!」

 鍛え抜かれた武を嘲る挑発は、不明朗な木々の間を通り抜ていく。それが伝わったのか、何処からか歯噛みするような音がするのを男はその鋭敏な聴力で捉える。虫の音のみが耳を打つ自然の中、男の背がぶるりと震えを覚えた。鬱蒼と立ち込める木々の間より自然のものとは到底思えぬ、研ぎ澄まされた殺気が男を捉えたからだ。
 男は一瞬身体の動きを止めて、次の瞬間には全身の力をだらりと抜かせていった。殺気に無意識に反応した身体では速さに勝る奇襲に対応できない。常にリラックスをして、身体全体に目を、そして耳を持つ事で、己に宿る武の真髄を発揮できるのだ。
 唯感じるままに男は自然に調和していく。まるで空気に溶けるかのような感触。男の意識の中では距離という概念すら無に帰していく。右も左も融和し、一つの直線が描かれていった。刺々しくも真っ直ぐに伸びる線の先に、どす黒く濁った等身大の存在を見つけた。

(......其処か)

 男はかっと瞳を開き、上段に剣を構えた。木々の合間を見詰めて微動だにしない。剣先一つ揺るがぬ其の背中は、明白に、致命的な隙を作り上げていた。
 瞬間、その背中を目掛けるように、男の背後の木々から一つの人影が駿馬にも劣らぬような速さで駆け寄っていく。ひょろりと痩せ木のように伸びた体躯を、暗がりに親和するよ
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