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王道を走れば:幻想にて
第二章、その4:甘味の後味
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別なんだから!そう、特別な日なの!だから...)
「いらっしゃい、お嬢さん!お嬢ちゃんも食べるかい?」
「はい!ひとつ下さい!!」
「はいよっ、ちょいと其処で腹を空かせたまま待ってな!!」

 屋台の女性はそういうなりへらで手際よく林檎を幾つか掬って白パンにそれを乗せ、果実を生地で包むように挟んだ。オーブンが準備出来ない以上、白パンが代替となるのであるが、それでも美味に相応しき外観をしていた。

「はいアップルパイ!たんと食べておいき!」
「有難う御座います!これ御代です!」
「はいよ、あんがとさん!はい次の方、何個食うんだい?」

 トニアは街の流れに身を委ねながら、焼き林檎を挟み込んだ白パンにむしゃりと齧り付く。咥内に広がる瑞々しい果汁、そして柔らかくも確りとした食感。舌の上で柑橘類独特の甘みが広がっていく。

「はむっ、あむっ...んふふふふっ」

 にへら顔を浮かべてトニアは更にアップルパイに齧り付く。通りを歩いていは立ち止まる度に、懐の重みが僅かに減っていった。



 同刻。場所は街一番の宿屋。
 慧卓は欠伸を噛み殺しながら朝の紅茶を啜る。薫り高い味わいは眠気を覚ましていくのにぴったりである。テーブルには白パンが乗っていたが、あまり手を出していない。宿屋の一階では彼の他に宿屋の主人しか居ない。他の面子は唯一人を残して既に外に出てしまっている。
 その最後の一人、コーデリア王女が確りとした足取りで階段を降りて来た。未だ眠気を覚えているのか、ジト目のままである。それでも宿屋の主人が用意した衣服|(清楚な白いワンピース、その上からラズベリーのような色をしたカーディガンを羽織っている)を着こなす様は、流石王族の娘といったところか。
 
「お早う御座います...ケイタク様」
「お早うございます。って王女様、結構眠そうですね?」
「何処かの誰かさんが、必死に礼儀所作の講義をお願いするからです...ふぁ...夜遅くまで頑張りすぎました...」
「あ、あははは、すみません...」
(感覚的には夜の十二時半くらいなんだけど、こっちではかなり遅い時間なんだよな...)

 罪悪感を感じる慧卓。それもそうだ。彼にとっての現実世界では、人々にとって夜とは仕事の時間であり遊びの時間。夜更けを過ぎて尚身体を運ぶ者が多いのが当たり前であったのだ。対して此の世界は夕暮れと共に身を休め、夜明けと共に身を起こすという慣習が根強い社会。コーデリアとて、その慣習に浸かっていない筈が無かった。
 慧卓の真向かいの椅子に座るコーデリア。そして喧騒を耳にしたのか、窓の方へと視線を向ける。

「...何やら街が賑やか感じですね...それにいい匂い...あっ、朝餉ですか」
「今日の朝餉は軽めにしましょう...後が愉しいですからね」
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