第二章、その4:甘味の後味
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かんかん照りの夏模様の空。太陽からまるで熱波のように放たれる陽射は想像を超える暑さを地上に齎す。そうなれば、自然と汗もだらだらと垂れていくのが道理だ。
「ふぃー、やっと追い着いたかー!」
王都に程近き街、『ロプスマ』の街門を潜り抜けて、一人の少女が安堵の言葉を漏らした。顔には汗の筋が幾つも垂れており、手でぱっと払えば滴が地面に飛ぶようだ。一息に飲む清水でさえ、今の彼女にとっては極上の聖水に等しき美味であった。
王都育ちの彼女がこの街に来たのは理由がある。彼女の母方の父親が此の街で衣服店を経営しているが、現在は人手不足であるためにその手伝いに来たのだ。無論給金目当てである事も忘れてはならない。だが此処に来るにあたり、途中の豪雨や今日の暑さといい、天気模様に恵まれぬ道程であった。だが一度街に着けばそんな苦労も吹き飛ぶものだ。
幼さが抜けぬ雀斑顔で、少女は街を見渡す。多種多様な人々がわいわいと行き交う活気の溢れる街並みは、正しく『ロプスマ』の光景であった。
「何時来ても此処は賑やかだなぁ......って」
少女は鼻をくんくんと鳴らす。途端に鼻孔を通じて豊潤で、爽やかな甘みを利かせた薫りが入り込み、彼女の目をはっと開かせた。
「この甘い匂い...もしかして...アップルパイ!?」
意識の中でその匂いをはっと思い出し、彼女は周囲に視線を巡らせた。そしてその予想通りに、通りに面して開かれた即席の屋台で、恰幅の良い女性がアップルパイの売込みをしていた。
少女は改めて通りを見渡す。屋台を開いているのはアップルパイの女性だけではない。魔除けの呪い道具を売る者、和やかな笑みと雰囲気で巧みに客を引き寄せる。家事道具を売り込む者、箒を片手に声を張り上げる様は旦那を尻に敷く女房姿と変わらない。厳しき面構えが功を奏したか、武具屋の前には似たような風貌の持ち主がわんさかと集まり、その周囲一帯だけがぎちぎちと張り詰めた緊張感が漂っている。明らかに空気を呼んでいない。
だがそれさえ目を瞑れば、この街はまるで意思があるかのように、賑やかさをより高みへと盛り上げていた。誰も彼もが好奇の視線を交わしあい、欲の充足を全うせんと、その独特の雰囲気を愉しまんと歩いていく。人それを、祭りという。
少女は懐から皮袋を取り出して小さく振った。じゃらじゃらと、にやけ面を浮かばせるような心地良い音が鳴る。
(だ、大丈夫よ、トニア。ちょっとはお金も余ってるんだから、そうちょっとならいいのよ!ちょっとだけ...)
自分に言い訳をする一方、香りに誘われるままにアップルパイの屋台へと足が動いていく。カリカリに鉄板の上で焼かれた林檎の実、其処から薫り立つ芳醇な香りを嗅いで、思わず喉を鳴らす。我慢の糸がぶつりと切れた。
(きょ、今日は特
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