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王道を走れば:幻想にて
第二章、その2:雨雨、合掌
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く。普段他人を貶して嘲笑う悪癖を持つ癖してこのような時だけ純真無垢に直走るのは、ある意味少年の才能というべきか。老人は溜息を一つ漏らして立ち上がり、窓をそっと開く。

「...冷えるなぁ」

 雲に急き立てられるように涼しげな風が吹き込み、老人の身体を撫でる。窓から見下ろせば、その眼下に映り込む壮麗な街並み。マイン王国の王都『ラザフォード』に広まっていく、悪天候に備えようと慌しく行き交う人々を見下ろす。

(......ふむ、今宵は茸のシチューでも頼んでみるかな)

 つい先程走駆して去った少年は従者にして、料理等の家事一切と得意としている。夏入り始めに吹いてきた冷風を凌ぐのに、温かなシチューを作るくらい造作も無いであろう。
 嬉しげに炊事に手を運ぶ少年の姿を夢想しつつ、マイン王国の政を一手に担う切れ者、レイモンド執政長官は窓の戸をそっと閉めた。勢いを増す風が窓に当たり、がたがたと揺らしていく。




 悪雲立ち込める天上より、ごろごろと唸るような雷鳴が轟き始める。それに端を発したように、ぼつぼつと大粒の雨が大地に落ちていき、一分も経たぬ内に視界が雨の軌跡に覆い隠されていく。数十歩先の風景は大雨が生み出す土煙に消えてしまった。

「...一気に降ってきましたね」
「落雷が怖いわ。避雷針なんてないから、当たったら当に不幸としか言いようが無いわね」
「残念、貴方の冒険は此処で終わってしまった!」
「笑えないから止めなさい」

 慧卓と熊美は雨に顔を叩かれながらゆっくりと歩を進ませる。慧卓の短い黒髪は水滴をすっぽりと吸い尽くしており、熊美の頭皮に雨粒が当たって弾けている。その横と後方を、兵団の最後尾の者達が馬車を引いて歩んでいく。防水を兼ねて馬車に被された布も既にどっくりと雨粒を吸い込んでおり、雨が長く続けばそれが馬足を遅くさせる一因となっていくだろう。
 蹄が地面を鳴らす音が耳に入る。慧卓は顔を上げて目を細くする。雨のカーテンの中から、アリッサが駆け寄ってきた。焦げ茶色の髪の毛が額に張り付き、樫のマントもまるで重石の様に背中に吸い付いていた。

「御待たせしました」
「結局、どうだったんです?」

 三者は馬を合わせて歩んでいく。雨に負けぬよう、自然と大きな声を出す。

「雨が本降りになるまで現場を探っていたのだが、どうもあの商人達、矢張り魔獣にやられたようだ、頭に拳大ほどの穴が開いていた」
「まじゅう...?魔獣ってなんです?」
「魔人共が掌握している凶暴化した獣だ。一般の獣よりも膂力があり、そしてより残忍な性格となっている。集団で襲われたら此方も死傷者を覚悟せねばなるまい」

 慧卓は僅かに瞠目する。獣一つに近衛騎士とあろうものがかなりの警戒心を抱いている事は流石に予想外であった。否、恐らく
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