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王道を走れば:幻想にて
第二章、その2:雨雨、合掌
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、口先が尖がった蜥蜴もいるらしいわ。共通するのは、奴らは我等と同じ言葉を話し、生活を営むという事だけ。我等はその異形故に、奴らを魔人と呼んでいる」
「魔人ね...アリッサさん、一応そいつらって人なんでしょ?」
「まぁ、喋れるからな。..だが奴らは未開の種族だ、実態が良く分からぬ。臣民の間で話の種として持ち出されるとしても、それは物語や詩の中だけだ。常に誇張と脚色が付き纏う。私が敢えて、騎士の一人として奴らを言うならば...」

 まるで辛酸を舐めてそれを押し殺すような顔付き、そして自然と低くなる声でアリッサは言う。 

「奴らは生粋の戦狂い、血に飢えた天邪鬼だな」
「?それはどういうーーー」
「近衛殿っっっ!!!!」

 穏やかな空気を立ちこませていた慧卓等の中へ、緊迫感をどんと滲ませた兵士の声が走ってきた。馬に騎乗した兵士が、兵士の列を横目に駆け寄ってくる。何時の間にやら前方では、兵達が足早に展開していく様子が見て取れていた。

「近衛殿、直ぐに前方へ参られたく存じます!」
「何があった?」
「馬車が一台...乗客と御者共々、殺されています」
『っ!!』
「ちっ、案内しろ!ケイタク殿とクマ殿は行軍をお続け下さいっ!!」
 
 聞くや否や、アリッサは常の凛然とした騎士の様を取り戻し、馬に手綱を打って駆け出して行った。颯爽と兵の列の横を駆け抜けるアリッサの頭上にて、人の走駆よりも何倍も早い綿雲が天を覆い、薄暗い陰を地面に落す。もう一度後ろを振り返れば、どんより気分の暗雲が此方へと漂ってくるのが見える。見間違う筈の無い、底の厚い積乱雲である。

「...一気に曇ってきたわね...」
「...だから言ったでしょう?大雨ですって、あれ」

 展開していく兵士の邪魔にならぬよう街道の端に寄り、二人を乗せた馬はこつこつと蹄を鳴らして地を歩いていく。

 


「...そうか、遠征は上手くいったか」
「山賊達は一網打尽との事です。抵抗する者は皆ハゲタカの餌となり、生き残りは『弾劾の丘』で処刑致しました。鉄斧山賊団は、これで壊滅です」

 暗がりを生むように、広々とした非対称のカーテンで窓を閉ざす。自然と生じてくる陰鬱な陰を背にするように、男がひとつの部屋の中で椅子に座り、人に否応無く警戒心を抱かされるような撫で声を吐いた。爬虫類を思わせるような鋭い藍色の目は虚空を睨んでおり、頭部には紫がかった黒い火傷の痕が広がっている。年嵩をかなり重ねているのか傷痕に隠れるように額に皺が寄せられており、瞳の光をより剣呑なものとしている。その威圧的な顔立ちの前にすれば、彼が着ている紳士的な衣服でさえ形骸と化してしまう。
 机を挟んで跪く男、外套と纏った小太りの中年男は、そのでっくりと肥えた体躯とは対照的に、毛髪の後退という衰え
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