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王道を走れば:幻想にて
第二章、その2:雨雨、合掌
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うに美麗なその炎、外炎が透き通るような蒼に、内炎が果実のように色濃い蒼に燃える様は、海のようにとは言いえて妙である。型を留まらせる事無く炎が形を変えて揺らめく様は、まるで骸に閉じ込められていた魂が抜け出していくかのような動きに思えた。数え切れぬ雨粒を受けているに関わらず、炎は勢いを止めず燃えていく。
 炎の傍らに立つ老神官が胸の前で手を合わせて指を絡ませ、静謐に祈りを込めて、死骸を悼んでいる。熊美とアリッサは馬の足を遅くさせ、片手を胸に当てて哀悼の念を表す。慧卓もまた、掌を合わせて黙祷を捧げた。揺らめく炎に燻られて、物言わぬ骸が身動ぎをしたような気がした。

(......どうか、安らかに...)

 憐れなる末路を遂げた死者の魂が、迷いを持つ事無く、真っ直ぐに天国へ昇れるように慧卓は祈る。此の世界では寧ろ主神の御許の下か。何れにせよ、慧卓は無垢に黙祷を捧げるであろう。それが今彼にできる、唯一の事なのだから。
 時を進めると供に雨雲はどんどんと色濃くなり、長靴に溜まった水を吐き出すように土砂降りの雨が降り頻る。カイロも暖房機器も無い時代、雨に打たれ続けたら命に関わる事だってある。
 兵達の最後尾が蒼の炎を見送り、誰も彼もが急ぎ足で行軍を続ける。彼らを見送るように、蒼の弔炎がぼぉっと燃え尽きた。跡に残るのは、火花と共に飛び散った黒い燃えカスだけである。その燃えカスもまた雨に流され、遍く土に還った。
 梅雨の終わりの土砂降りを受けて、王国の将兵と異界の者達はその足を進ませていった。

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