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王道を走れば:幻想にて
第二章、その2:雨雨、合掌
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締めて、馬首を兵列の向かう先に向ける。

「皆様。行軍の途中で通り掛かったら、黙祷を捧げて下さい...では、私はこれで。神官には私から伝えておきます」
「...有難う御座います、殿下」

 アリッサの礼に一つ頷き、コーデリアは馬に鞭を打って足早に去っていく。空を覆う雲により地表に落された暗い陰が、彼女の背中を早々に消していった。
 シャワーの向こう側に消えたコーデリアの背中を見詰めて、アリッサは敬服が混じった声を漏らす。

「...驚いたな。唯の商人にあれを御使いになるとは...」
「...あの、こんなこというのもなんですけど、蒼櫃の秘薬とはなんなんですか?」
「...弔いの炎さ」
「...弔い?」
「高貴な騎士が亡くなった際に使う粉末の薬、それが蒼櫃の飛躍だ。骸に掛ければ、海のように深い蒼をした美しい炎が現れて、其の者の最期を救済する。...コーデリア様の御慈悲の手は遍く臣民に差し伸べられるという事か」
「良かったわね、ケイタク君。貴方、自分自身が思った以上に、あの子に気に入られてるわよ」
「...俺には、王女様が御考えになっている事なんて分かりません。でもその秘薬を王女様が使って下さり、それであの人達が最期に救われるなら、それに越した事はありません。彼らの魂が無事に天へ行けるように、確りと祈らせいただきます。俺なんかで大丈夫なら...」

 言葉の最後が小さくなってしまったが、それでも二人には確りと聞こえていたらしい。熊美はまるで、未熟でありながらどこまでも実直な後輩を呆れ、微笑ましく思うように苦笑を浮かべる。そしてアリッサもまた笑みを浮かべている。慧卓が真摯に人の死を悼んでその最期を助けようと独白し、結果としてコーデリア王女を動かした事に驚き、そして彼を誇りに思っているのだ。心の誇らしさと驚きで埋める一方、その片隅で慧卓を羨む気持ちもあった。

(...素直な気持ちだな...我等には無い純真さがある。...羨ましいよ、ケイタク殿)

 何時の間にか年嵩を重ねるうちに無くしてしまったかけがえの無い気持ち。今では国の将来を憂える事、そしてコーデリア王女を純真に想う以外にそれを感じる事が無かった。それだけに、アリッサの視点から見て、何事にも熱心で純真に気持ちを向けられる慧卓の姿勢は羨望の対象となるのは自然ともいうべきであった。
 ふと彼らの視界の一角にて、ぼっと、まるでサーチライトを焚いたかのように蒼い光が現れる。大雨の数え切れぬ軌跡の中、その光はめらめらと揺れている。三者はそれが自然と何であるかを悟り、アリッサが言葉にする。

「...あれが、『蒼の弔炎』だ」

 歩を近づけてそれを見遣る。大きく破損された馬車を床に見立て、二つの人間大の袋を包み込むように炎が上がっている。まるで磨き上げて輝きを放つ宝玉のよ
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