第二章、その2:雨雨、合掌
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いうのはね、人間だけじゃないのよ」
「...へぇー、知りませんでした。ってか今気付いたんですけど、俺此の世界の事、丸っきり分からないです。どんな国があるだとか、歴史がどうだとか」
慧卓はここ数日に見聞きしてきたこの世界の事を想起させる。銃火器の無い戦場だったり、とんでもなく美味い宴の肴であったり、村人達の朗らかな笑顔であったり。だがどれもこれもこの世界の歴史や文化を断片的に語るのみであり、慧卓の心に疑問符だけを浮かばせていく。一体『セラム』とは、どのような世界なのか。
「そうか...ケイタク殿は御存知ではなかったのか。では『セラム』について語ろうか」
その思いを叶えるように、破廉恥な妄想の海より帰来したアリッサが、なんでもなかったように極自然と話し出す。まるで純真な生徒に歴史を聞かす先生のような口振りだ。ドン引きするやら感心するやらで忙しい心を諌めつつ、慧卓は話に傾注していく。
「この世界、『セラム』には主に複数の人種が存在する。此処、紅牙大陸を支配する人間、北方の少数民族であるエルフ、そして少数民族のドワーフだ。最初は人間について話そう」
一度間を置いてから彼女は話を紡いでいく。鳥の嘶きが、空にぴうぴうと響き渡っていた。
「此処、紅牙大陸には二つの国がある。一つは我等がマイン王国。大陸の東方を支配する、樫の花の下に集う、強く気高き人間の王国だ」
「(ふむふむ...人間の王国と。)で、西方は?」
「...西方には、白百合を掲げ君臨する神聖マイン帝国がある。邪教の集まりで、酷く冷酷な者達が群れている。人間とエルフが共に作り上げた国家だ」
帝国を語る口振りは、蛆虫を踏み潰すが如く、汚らわしきものを嫌悪する声色であった。慧卓はそれに気付きつつ、温厚な雰囲気を保とうと軽い口振りでいう。
「どちらも同じマインなんですね?まぁそれは置いといて、なんでそんなに剣呑な感じなんです?帝国が嫌いなんですか?」
「...少し歴史の話に移るぞ。...今から三十数前、マイン王国内にて大内乱が起きた。当時の政治情勢の悪化から惹起されたものでな。北は当時のヨーゼフ宰相率いる保守派、南は軍務大臣率いる改革派。それぞれの軍閥が臣民の支持を集めんと政治的な強攻策に打って出たのが事の始まり。数年を掛けて内乱が繰り広げられた...」
「そうね...数え切れないほどの死傷者や戦争難民が出たわ」
「だが同時に名誉を受ける者も出た。クマ殿を始め多くの将兵らや隠れた天賦の才の持ち主を民草から得られたのは望外の喜びであった」
誇らしげな声色はすぐに変わる。目付きが腰の剣の刃先のように鋭くなり、彼方を睨みつける。美麗な花瓶のような肌が僅かに赤くなっている。思い出すだけでもむかむかとするものがあるらしい。
「そして内乱から数年後、
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