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王道を走れば:幻想にて
第二章、その1:門出
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けのバターや、或いは苺のジャムを塗れば更に美味となるに違いない。そして郷土料理らしい、切り刻んだ野菜と宴で余った肉を混ぜ合わせたスープ。具材の出汁を存分に吸ってか、色の良い膜が水面に上がっている。此方も香りを嗅ぐだけで食欲が誘われる。極み付けは新鮮な果実そのものだ。水気を肌に浮かせて山と積まれているそれは、手を伸ばして頬張れば病み付きになる事請負であろう。
 慧卓はこれらを用意してくれた、村一番の大女将、村長の奥方に対して、心の底からの感謝の念を抱き、そして料理の具材を作ってくれた村の人々に、『セラム』の雄大なる自然に対して感謝の念を抱く。世界を違えど、食べ物に対する感謝だけは絶対に忘れたりはしない。それが慧卓の心得であった。後は肉を抵抗無く食べれれば無問題なのだが、それは置いておく。
 四人が席に座ると、コーデリアが先んじて声を出す。

「では、いただきましょうか」
「そうですね、では...」
『いただきます』

 慧卓はその唱和に呆気を取られ、思わず問う。

「えっ、あれ?こっちでも有るんですか?」
「ふふ、クマ殿のお陰だよ」
「いやいや、私は切欠に過ぎん。皆の真心あっての流行さ」

 流行の仕掛け人は朗らかな笑みを浮かべてパンを齧る。まるで縋りつくようにもっちりとして生地が裂かれる様子を見て慧卓は空腹を改めて覚え、パンに齧りついた。瞬間、咥内に豊満なパンの香りと弾力が伝わり、彼の顔に満面の笑みを浮かばせた。コーデリアは自慢するように笑みを見せる。

「どうです?美味しいでしょう?」
「...美味しいです!...このパンの食感と風味っ...まさに嗜好の一品ですよ!!!」
「うふふ、お気に召した様で何よりです。後で料理をなされた方に感謝の言葉をいってあげて下さいね」
「はいっ、それは勿論ですよ!」

 途端に無我夢中と見れるほどに食事を食べ始める慧卓。まるで食い意地を張る幼子のような光景に、コーデリア等は顔を見合わせてくすりと笑みを浮かべる。胸に宿るのは、王国の小さな村に伝わる料理を心行くまで堪能してくれる慧卓に対する感謝、そして異界の者の心を捉えた料理に対する誇りであった。
 ちゅんちゅんと、小鳥が囀る。朝日の眩さは天を登り、村の外れに聳え立つ欅(けやき)に向かって燦燦と光を落としていた。




 慧卓等の食事が終わり、時刻は現代でいう09:30といったところか。慌しく村の出口にて出立の最終点検をしている真摯な兵達と打って変わって、二人の兵士が背嚢を下ろし、其の上に腰掛けて冗談を飛ばしあってる。雀斑(そばかす)が目立つ二十台後半近くの男が、髪を短く刈り込んだ同年代の男に対して朗らかに言った。

「ってな訳で俺はそいつの顔をぶん殴ったって訳だっ!オラっってよ、ハハハ!!」
「ハハっ、お前も粋な奴
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