第一章、終幕:ストレートアッパー、イン饗宴
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起こし、自己嫌悪に陥り始めた。先程まで体感していた世界にて、自分は何か嫌な飲み物を嚥下したのだ。そしてそれがために、今まで見た事が無い、まるで御伽の国の契情の美少女に口付けを落したのだ。到底普段の自分とは創造もつかぬ、ふしだらで、直情的な姿であった。そんな気にさせたのも、きっと夢にも似たあの世界の空気が悪いのだと慧卓は決め付けた。
「酷い世界だったなぁ...」
「あらぁ、慧卓君、起きたのかしらぁ?」
「現実はもっと酷かった...」
耳に入った声に頭痛を覚え、その方向へと目を向ける。合理的な配置をした料理道具に囲まれたキッチンに、可愛らしいひらひらをつけたエプロンを纏う、強烈なまでに逞しいオカマが其処に居た。慧卓の記憶は其の人物の名を、熊美と言い当てていた。
思わず毀れ出す溜息が朝焼けの部屋の中に混じる。ふと慧卓は己の唇に手を当てた。冷たと乾きが顕れたその部分は、確かに柔らかな感触を覚えていたのだ。仄かに薫り、艶やかな甘みを湛える少女の唇を。
此処は現実、勤木市の一軒家。しがなき一人の夜の蝶、『矢頭熊美』の静かな住まい。その家の中で、流線を描いたフォルムをしたトースターがちんと鳴り、狐色に焼かれた食パンが元気良く飛び出した。仄かに鼻を嗅ぐわすそれに、慧卓の腹はぐぅと鼓動を立てた。
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