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王道を走れば:幻想にて
第一章、終幕:ストレートアッパー、イン饗宴
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的にコーデリアは混沌とした意識の中、相手の唇の柔らかさを実感するより前に、泥酔人独特の酒臭さを間近で感じていた。
 慧卓がゆっくりと唇を離した。悪戯っ気に溢れた稚児のような朗らかな笑みを浮かべる。

「ご馳走様でしたっ、エヘ」
「...何時か来るとは思ってたけど、まさか、政略結婚前の話が来る前だったとはね...」
「えっ?」
「どうせいつかは奪われるんだから、せめて、初めてだけは、好きな人に捧げたかったのに...悪酔いした何処かの馬の骨に奪われるなんて...」
「あれ?王女様?」

 表情を窺わせぬ様に俯き、ぽつりぽつりと紡がれる言葉に何処と無く不穏な気配を慧卓は感じる。抱擁の手を離してその顔をのぞこうとした其の時、烈火の如く瞳を怒らせたコーデリアと視線が合わさった。

「なんで初めての味が酒臭いんだ、ざっけんなゴラァァァァッッッッ!!!!!」
「ゲバァッ!?」
 
 腰の入ったコーデリアの正拳が慧卓の顎を跳ね上げる。空を舞う事は流石に無いが、酔いにふらつく男の意識を暗転させる程の威力を持った拳であった。慧卓はその威力に身体を仰け反らせ、そのまま後ろへと倒れ込んでいく。ぐらぐらと回転する視界の中、不思議な妖艶さを醸し出す光沢を放つ三日月が彼の目に焼きつき、それを最後に意識が奈落へと落ちていく。その最中、周囲の者達の囃し声が一段と高くなったような気がした。




 はっと目を見開いて慧卓が覚醒する。
 眠気の無い瞳に真っ先に飛び込んだのは、窓辺から差し込む払暁の明るい光と、無機質でそれでいて温かみのある白い天上。身体に感じるのは、深みのある上質なソファの柔らかな感触。そして鼻を誘うは、香ばしいパンの臭いである。これは、紛う事なき現代の風景。とすると、夢から現実へと回帰したのだろうか。まるで白煙のように眠気を残す意識の中を白い靄がかかっており、先程まで感じていた筈の現実とは思えぬ、而して現実感の強い世界の想起を妨げていた。
 慧卓は納得のいかぬ表情を浮かべ、手を宙に翳して見遣る。此の手や肌に感じたのは、この耳目で捉えたのは、確かに紛いの無い現実であった筈なのだ。段々と血流の巡りを覚え始めて覚醒していく意識の中、慧卓は必死に己が感じていた世界を思い起こす。何処か深く、鬱蒼とした場所を走っていた気がする。そしてひんやりとした細い道を歩き、険しい陸を上り、下っていった。轟音が耳を貫き、そして何か噎せ返るような臭いに襲われた。漠然とした記憶だけしかないが、それでも慧卓にとっては、血潮に通う己の魂と同じくらいに大切で、とても価値在るものに思えてならない。例えそれがよくある一抹の夢だと笑わるとしても、慧卓の胸の中に喪失感も、ましてや虚無感も沸き得ないだろう。
 慧卓は想起を巡らしていく中、やけにはっきりと記憶に残ったシーンを思い
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