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王道を走れば:幻想にて
第一章、終幕:ストレートアッパー、イン饗宴
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瞳であろうかと、熊美は心の端で思う。
 コーデリアは一つ頭を振り、常の宝玉のように美麗な瞳を取り戻すと、熊美に尋ねた。

「クマ殿。久しぶりの『セラム』はどうですか?」
「...此処は変わっていませんな。空気はうまいですし、星空はいつも絢爛としている。そして人々は、いっつも賑やかだ。貴方が思っている以上に此処はいい世界ですよ」
「......そうですか。そうだといいのですけど」

 間を置いてコーデリアは応えた。心成しか、其の声に得心も共感も無いように聞こえる。まるで今生に辟易としているかのように、色を乗せていない声であった。
 熊美が不審に思い尋ねようとすると、自らの下に近付く足音に気付いて目を向けた。表情を陶然とさせて顔を心地良さげに赤らめている慧卓が、覚束無い足取りでふらふらと近寄ってきた。近寄る度に、濃厚な酒の臭いが漂って鼻を突く。かなりの量を飲まされ、飲んだらしい。

「あぁ、王女様ぁ、ひっ!飲まないんですか?」
「過剰な飲酒は、将来、肌に悪いので」
「そーなんですか...ああぁ、ってことはぁアリッサは将来皺だらけーーー」
「おっらぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」

 裂帛の一声を伴い、アリッサが慧卓に向かって椅子を振り下ろす。へべれけとなった者に有るまじき鋭い一振りである。だがその一撃は虚しく空を切り、勢いを保ちながら地面に叩きつけられる。衝撃で椅子の足がぱっきりと折れ、酔いで頭をやられたのかアリッサが前のめりに地面に倒れ込んだ。
 その様子を、慧卓がコーデリアを抱きかかえたまま見下す。こちらも泥酔した者に有るまじき機転の効き様である。胸元に押し付けられたコーデリアは、外観より想像する意外と引き締まっている体躯に若干の驚きを抱きながら、己の臀部に這う違和感を訝しむ。慧卓がアリッサに向かって心底馬鹿にするような口振りで吠え立てた。 

「バーカバーカっ!お前なんか其処で突っ伏して寝てるのがお似合いだ、バーカ!!」
「ちょっとケイタク殿!?なんかお尻に変な感触があるのですけど、これは一体!?」
「握ってるのよ」
「握るな、このバッーーー」

 言葉が妨げられたかのように途切れる。コーデリアは瞠目して意識を硬直させた。彼女の琥珀色の瞳に、瞳を瞑った慧卓のほろ酔い顔が移りこむ。

「......なっ...!」
「おぉっっ!?」
『おおおおおっっっっ!?!?』

 人々の驚愕の声が場を木霊した。衆目が集まる中、コーデリアと慧卓の影が一つとなっている。否、一つとされている。胸の中に抱擁しているコーデリアの美麗な唇に、慧卓が己のそれを優しく、丁寧に押し付けている。酒酔いで明瞭となっていない意識の中ではあるが、而して慧卓はコーデリアの媚薬のような仄かな甘い香りと、餅のような柔和な触感を確りと感じていた。対照
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