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王道を走れば:幻想にて
第一章、終幕:ストレートアッパー、イン饗宴
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「酒乱、此処に極まれり、ですね...矢張り恐ろしい液体です、これは」
「だからこそ、確りと酒を理解して飲むほどに、より旨みを感じられるのだ、ケイタク殿」

 何処か誇らしそうに言うアリッサの言葉に納得がいかず、ジョッキの中の赤い液体を見遣る。鼻を刺激する芳醇で、それでいて苦味のある薫りはまだ慣れない。思わず眉を顰めてしまう。

「俺にはまだ理解できそうに無いです...葡萄酒だって初めてですし」
「なら、良い飲み方を教えてやろう」
(あっ、これは悪戯する気ね)

 熊美が直感を働かせる中、アリッサが食卓よりジョッキを掴み取ると、並々とそれに葡萄酒を注いでいく。コップの端限界ぎりぎりまで注がれたそれに慧卓が軽く引いてアリッサを見遣った。常の冷静さを秘めたその顔は、ほんのりと赤みを浮かべているように見える。

「この葡萄酒は特製でな、下戸でも悪酔いしない酒として有名なのだ」
「...ふ、ふーん、そうなのかー?」
「そしてこれは秘伝の手法により醸造されたものでな、とてもさっぱりとした味わいとなっている」
「ってことは、喉に通りやすいって事ですか?」
「あぁ、だからこうやって...」

 言うなりアリッサは腰に手を当てて一息にジョッキを煽った。ごくりごくりと喉が鳴らされ、深みのある葡萄酒を胃袋で味わうように嚥下していく。思わず瞠目する慧卓と対照的に、コーデリア冷たく細まったジト目を浮かべてアリッサを睨みつけた。アリッサは勢いのままに酒を嚥下していき、その最後の一滴を飲み干す。思わず慧卓は拍手をして彼女を讃えた。

「ぷはぁっ!一気飲みしても大丈夫だぞ!」
「...すごいですね...アリッサさん、もしかして酒豪なんですか?あの、酔ってないですよね?」
「そんなことないよー!私はな、ただちょっと羽目を外すと後が怖いだけなんだー!アハハハ!!」
(言ってる傍からいきなり酔ってるわよ)

 美麗な顔立ちを赤く染め上げ、凛々しさの欠片の無いでれっとした笑みを浮かべてアリッサは笑い声を高らかにする。夜の帳にその声は響き、呆然とした慧卓の耳を打った。アリッサは慧卓の手の中にあるジョッキに酒を注ぎ足す。溢れる一歩手前まで注がれるそれに茫然とした慧卓の背を押すように、妙に艶治な声でアリッサが声を掛けた。

「ささささっ、今夜の主役なんだから、飲めっ!一気に!」
「えっ、一気ですか!?」
「はーやーくー!飲んでー!濃くておいしいの飲めー!一気、一気、一気、一気!!!」

 手を叩いて戦慄の『一気コール』を始めるアリッサ。それに素早く反応してか、周りの兵士達もノリの侭に手を叩き、口々に囃し立てる。悪戯に輝かせたその瞳が、今は憎たらしくて仕方が無かった。皆が皆、素敵な笑顔を湛えて、有無を言わせぬ悪魔の如きプレッシャーを慧卓に押し
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