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王道を走れば:幻想にて
第一章、終幕:ストレートアッパー、イン饗宴
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軽やかな雰囲気を見て自ずと思う。きっとこれは、互いの心を讃え合い、愉悦の宴に杯を交わす歌であろうと。そうでなくば、どうしてこの酒宴に披露されようか。
 そして男達は酒酔いの身体に鞭と打ってか打たないでか、小気味の良い踊りをも見せていた。リズムの波に身体を乗せて、踵を、爪先を地面に軽く打ち当てる。その途端にまるでタップダンスの如く兵達のグリーヴが鳴らされ、小さな土煙を撒きながらバグパイプのそれと調律を合わせる。右に左に、そして前後に。男達が自由気侭に場を踊り、浮かれ気分の心を更に掻き立てている。二日酔いが酷そうだと、慧卓は心の片隅で思う。
 この様子をアリッサは柔らかな笑みで見詰めている。時折、リズムを取るように指を跳ね上げながら、コーデリアに話し掛けた。
 
「彼らは、祭りと聞けば直ぐに浮かれ気分となる性分ですから。しかも唯の祭りではなく山賊討伐の戦勝記念を込めた祝祭であり、更には王女殿下も御参加なさるとくれば...」
「旨みも一入、っというわけですね」
「其の通り」

 慧卓の言葉に逡巡なくアリッサは頷いた。それに続いてコーデリアが華やかな笑みを慧卓に見せる。 

「今宵は誰しもが無礼講。宴はいつもこうでなくてはなりません」
「えぇ、心より賛同します...でも一つ不満に思う事とあれば...」

 慧卓は己の手の中にあるジョッキに目を落す。赤々としたワインが湖面を張っており、ぐらぐらと揺れている。熊美が思わず彼に同情の視線を浮かべていた。

(グラスが無いなら仕方ないな...いやいやそうじゃなくて!)

 慧卓は溜息を漏らすように言葉を出す。
 
「...なんで俺は酒なの」
「主役だからよ...我慢しなさい」
「此処って、十六歳は成年として扱われるんですよね?」
「宴に年齢は関係ないわよ」

 そういって熊美はジュースを口に含む。アリッサが意外そうな口振りで問いかけた。

「おや、御両名とも下戸でしたか?」
「私の事が今も尚持て囃されているのなら、きっとこの話も伝わっているでしょう。『酒乱熊、王冠を喰らう』事」
「あぁ、ははははっ!えぇ、まだ伝わっておりますよ!黒衛騎士団団長の、一世一代の大失態をね!」

 調子の良い笑い声を漏らすアリッサを見遣り、ついで熊美に訝しげに慧卓は視線を向かわせた。 

「なにやらかしたんです?」
「まっ、今日みたいなはっちゃけた晩餐会があってね。しかも丁度戦勝祝賀会だったわ。其処で私、酒でべろんべろんに酔い潰れた当時の宰相、つまり前の国王に絡まれて、酒樽に顔を突っ込まされたの」
「うっわ...」
「其の後はもう大変。人が言うには、私はいきなり全裸となり、宰相を掲げて猿の如き雄たけびを上げ、会場内を走り回り、終いには宴に参加していた当時の国王の王冠に噛り付いた」
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