第一章、終幕:ストレートアッパー、イン饗宴
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な苦味が咥内を支配し、喉の奥が歓喜に震えるように熱くなる。アルコールの面目顕如だ。喉をごくりと鳴らしてそれを嚥下すれば、えもいわれぬ爽快感を感じて声を漏らし、口元に白髭がつく。そして気付けば、更に食欲を満たさんと料理に手を伸ばしているのだ。そして葡萄酒。透き通った紫の湖面がゆらゆらと揺れて、妖艶に飲み手を誘う。口元に近づければ濃厚な薫りが鼻を惑わせる。一思いに口に含めば、葡萄の芳醇な酸味がまろやかな渋みに調和していく。鼻に抜ける薫りを愉しみながら嚥下すれば、喉を優しく撫でる様に旨味が通り抜け、芳しい余韻を残していく。だがワイン好きには不運な事に、この美酒をゆっくりと愉しむ者は此の宴には皆無である。まるでビールのようにごくごくと喉を鳴らし、その風味を味わう以上の豪快な笑みを漏らしていた。これも一つの酒の愉しみ方であろう。
他にも色々と料理はあり、鷹揚に人々の腹を満たしていった。口伝だけでは伝えきれぬほどの絶品の数々。兵達の心のささくれを取り外し、和気藹々とさせるに大変な良薬となっていた。
慧卓は熊美の下へと向かう。下戸であるその者はアリッサとコーデリアと歓談しながら、果実を搾り取ったジュースをちびりちびりと口に含んでいた。嬉々としてヨーグルトを頬張っていたコーデリアが慧卓に向かって朗らかに声を掛けてくる。
「お愉しみ戴いておりますか、ケイタク殿」
「えぇ、とても。今日は有難う御座います。助けてもらって、しかもこんなに美味しい料理を戴いて。そして素晴らしい歌と踊りまで披露して貰って」
篝火の傍にあるのは料理だけではない。娯楽もまた、人々の心を和やかにさせていた。
人間、作業効率を上げるために如何してもリズムを誘発してしまうものだ。現代ではそれこそが音楽の始まりとする説も提唱されている。きっとその提唱者は、現代よりも技術や生活水準に劣る此の世界に来れば歓喜するに違いない。何故ならば世界を違えるこの村の者達も同じように、リズムを取って音楽を奏でているのだから。
バグパイプの高らかな響きが空を靡き、地面を駆ける駿馬のような軽やかな歌が紡がれる。幾人もの村の男達がパイプを通してバグパイプの黒いバッグに空気を吹き込み、バッグの腹から生えるパイプから高調子の清清しい音が吹かれる。幾つものパイプから其の音が吹かれ、時にはズレを交えながら重なり、高調子を演奏たらしめている。旋律の中にこぶしのような音が短く入り、曲を一層鮮やかに仕立て上げた。酒に酔って浮かれ気分となる者達を囃し立てるようにバグパイプが音楽を奏で、気分を盛り上げた者達が酔っているにも関わらず妙にリズムの取れた歌を披露する。野暮ったくも朗らかな声が、渋みの走る勇壮な声が、若さの残る高らかな声が重なり、一つの歌を笑顔で歌っている。其の言語は慧卓には解せぬものであったが、だが彼らの表情を、
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