暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第一章、終幕:ストレートアッパー、イン饗宴
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った肉の断層が覗いて湯気を上げる。良く焼かれたのであろう、血が通っていた肉は白身を全体に帯び、湯気をベールのように纏ったそれを見れば否応なく食欲が刺激される。フォークに切り取った肉を刺して口に運ぶ。足を千切って手掴みで運ぶも良い。肉を噛み締めた瞬間、断層の中から肉汁の旨みと薫りが溢れ出し、咥内を支配していく。一口、二口。噛み締める度に肉がパンのように潰され、肉汁が溢れ出す。嚥下するのが勿体無いくらいである。そして幸運な事に、まだまだ美味たる料理は尽きなかった。
 ふっくらと焼きあがったパン。現代でいうところの、ロールパンに近い形をしている。丸みを帯びたそれは程好い焼き色に染まりあがり、指で押せば表皮を崩しながら凹み、柔らかく温かな感触を指に伝える。それを千切れば、ほんわかとした湯気を漏らしながら、絹のような純白のパン生地が現れる。口に運べばそれだけで香りの良さと丁寧な膨らみ、その両方を一時に味わえる。だがそれだけでは単調だ。熱の残るそれにバターを塗れば、クリームのような淡い黄色が溶け出し、芳醇な香りが鼻を掠める。林檎のジャムを選ぶのならば、果実を含んだそれが生地の膨らみに彩りを乗せ、甘く爽やかな味と香りを約束するであろう。どちらを塗るかは、皆の好みに。
 ほんのりと湯気を上げたトマトスープ。赤く染まりがった其の中には形を解されたトマトの他に、刻まれて筋を浮かせている玉葱もあり、そして外観に色を添えるようにパセリがかけられている。スプーンを通せば、溶けた玉葱が糸を零しながら掬われ、味覚をそそる刺激的な湖を匙の中に作り出す。きらりと光るそれを口に含み、舌の上で転がす。トマトの甘味が濃厚に詰まった汁に混ざり、玉葱が溶けるように喉の奥へと流れ込む。温かみのあるスープに心地が良くなる。また、パンを千切ってスープに浸して口に運んでみる。ふっくらとした生地にトマトの甘味と酸味が染み込み、生地の優しさを蕩かして味わいを深めていく。
 甘味としては、果実をふんだんに混ぜ合わせたヨーグルト。牛より搾り取った乳を使っており、果実は村原産の新鮮なものだ。純白の海の中に、見目麗しい果実が浮かび、沈んでいる。赤く実りをつけた苺、新緑のような青みを花咲かせた葡萄の実、そして一口大に刻まれた林檎がヨーグルトに和えられており、その甘みをより引き立たせる。口に流れるヨーグルトはほんのり甘く、自己主張を過敏にしない。果実を噛み締めれば葡萄の酸味、苺と林檎の爽やかな甘みがオーケストラの弦楽器のように波長を合わせ、味覚を喜ばせた。慧卓はこれを大変に好み、味わうように食べている。一口一口に新しい旨みを知るように、ゆっくりと味を噛み締めた。
 そしてなんといっても宴に欠かせぬのは、酒である。用意されたのは男好みの麦酒、そして葡萄酒である。黄色の湖面に泡の層が浮き立ち、口にそれを含めば一気に爽やか
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